薬剤部紹介

名大病院薬剤部の現状と将来展望
教授・薬剤部長 山田清文


 鶴天薬友会会員の皆様には、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
 平成19年8月(2007年)に名大病院へ着任して早10年が経過しました。この間、大学病院薬剤部を取り巻く環境は大きく変化し、平成24年には6年制の薬学教育を受けた薬剤師が誕生しました。平成26年には薬剤師法が改正され、薬剤師は患者に医薬品情報を提供するだけでなく、必要な薬学的指導を行うことが義務化されました(第25条の2)。本改正により、薬剤師は薬物治療に関して医師と同等の責任を負うことになったと言われています。また、薬剤師が一般病棟だけでなく、救命救急や集中治療室などに常駐してチーム医療に関与すると、医療の質が向上すると評価されました。一方、東京女子医科大学病院や群馬大学医学部附属病院における医療事故を契機として、大学附属病院等のガバナンス強化、医薬品の適正使用と安全管理への薬剤師の関与が強く求められています。 こうした医療環境と社会情勢の変化に伴い、名大病院の薬剤師数は97名に増えました。このように名大病院薬剤部が大きく発展できましたのは、現職員だけでなく、鶴天薬友会会員の皆様のご支援、ご協力の賜物です。この場をお借りして改めてお礼申し上げます。前回の鶴天薬友会(平成23年)から5年が経過しましたので、この機会に名大病院薬剤部の現状と将来展望について述べさせていただきます。鶴天薬友会会員の皆様から忌憚のないご意見をいただければ幸いです。

◆薬剤師数の増加と鶴天薬友会会員の活躍
 平成23年の鶴天薬友会では新しい薬剤部業務として、(1)全抗がん剤のミキシングとがん化学療法のレジメン管理、(2)ICU/NICUへの専任薬剤師の配置、(3)注射薬の一施用毎の個人セット払出しなどを報告しました。その後も新たな業務展開に努め、(4)一人当直から二人夜勤体制への夜間業務体制の変更、(5)薬剤師レジデント制度の導入、(6)病棟薬剤業務実施加算1及び2の算定(病棟専従薬剤師による医師等の医療チームメンバーへの情報提供)、(7)事前プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)の導入、(8)オペ室サテライトファーマシーの開設と薬剤師常駐、(9)周術期外来の開設、(10)がん患者指導管理料3の算定、(11)未承認新規医薬品等管理室の設立などを開始しました。その結果、平成28年度の薬剤管理指導件数(入院患者の服薬指導)は年間4万件、退院時指導件数は5千件を超え、国立大学医学部附属病院の中ではトップレベルの業務成果を挙げることができました。

◆薬剤師レジデント
 日進月歩の医学・医療において、医療職の教育は卒前教育だけでは不十分であり、卒後初期から生涯にわたる教育研修が必要です。医師および歯科医師の場合には、すでに10年以上前に卒後臨床研修が必修化され、看護師も平成22年から努力義務となっています。薬剤師の場合、卒後初期臨床研修に関する法的な縛りはなく、他の医療職に比較するとその体制整備は大きく遅れています。そこで名大病院では、6年制の薬学教育を受けた薬剤師が誕生した平成24年度より、卒後初期研修として薬剤師レジデント制度を導入しました。薬剤師レジデント制度は、以前大学病院に大勢在籍していた薬剤部研修生とは異なり、有給で経済的に自立して臨床研修に専念できる卒後初期研修制度の一つです。全国に先駆けて薬剤師レジデント制度を名大病院に導入できたのは、当時の病院長であり現名古屋大学総長の松尾清一先生のご理解とご支援によるものです。 薬剤師レジデント制度の目的は、臨床薬剤師としての基本的な知識と技能を修得した人材、日常臨床で遭遇する様々な疾患に対する薬物治療を適切に管理する実践力とともに臨床医薬学研究を実施する能力を有する薬剤師を養成することです。名大病院のプログラムで1-2年間研修に専念することにより、基本的な調剤知識・技能は勿論のこと、がん化学療法のレジメン監査と抗がん剤調製、中心静脈栄養法などの専門的知識と技能を習得できます。さらに、1年間で3病棟をローテートすることにより、100-150名の入院患者を担当し、10-12疾患群で合計30-50疾患の薬物治療管理を経験できます。これまでに全国各地から延べ43名をレジデントとして受け入れ、修了者の約60%を名大病院職員として採用、残り40%は全国の基幹病院や調剤薬局に即戦力として送り出しました。

◆研究活動
 薬剤部の目標の一つに医療薬学研究の推進を掲げ、医療薬学の発展と新しい薬物療法の開発に貢献できる薬剤部を目指し、多くの診療科と共同研究を推進しています。また、薬剤部内に研究ワーキンググループを設けて生物統計や科学論文の批判的読み方の勉強会を開催し、若い薬剤師の研究活動を支援し、Pharmacist-Scientistの育成を行っています。 最近、がん専門薬剤師と化学療法部の医師が共同で二重盲検比較対照試験を実施し、麻薬誘発性の悪心嘔吐に対する支持療法に関して質の高いエビデンスを創出しました。また、米国FDAの有害事象報告データベースを利用してリウマチ患者における生物学的製剤の使用と感染症との関連性をデータマインニングの手法を用いて解析し、各生物学的製剤で感染症リスクが大きくことなることを明らかにしました。所謂、ビッグデータの利活用に基づく臨床研究であり、今後の発展が期待される研究分野です。薬剤師レジデントに対しても、研修中に生じたクリニカル・クエスチョンに対する解答を得るための臨床研究の立案と実施を研修課題に加えています。その他、近隣の薬学部の先生方と協働して薬剤師外来を運営しており、共同研究を積極的に行っています。基礎研究では記憶や情動のメカニズムの解明、統合失調症や認知症などの脳疾患の病態解明と新規治療薬の開発を目標として、国内外の多くの研究機関・研究者と共同研究を行っています。 平成28年度、薬剤部職員が筆頭著者として発表した英文原著は4報(永井拓、宮川泰宏、丹羽洋介、加藤博史)、和文原著3報(倉地茜、荒木理沙、久米初枝)、英文総説2報(永井拓、伊藤教道)です。最近の受賞歴として、日本依存神経精神科学会第5回柳田知司賞(永井拓)、平成29年度日本神経化学会優秀賞(永井拓)、日本病院薬剤師会東海ブロック2015 ベストプレゼン賞(宮崎雅之、他4名)、平成29年度日本医療薬学会がん専門薬剤師認定制度委員会優秀奨励賞(市川和哉)、2015年臨床腫瘍薬学会学術大会初心者優秀演題賞(佐々木優実、他6名)などがあります。

◆将来展望
 名大病院の理念に則り、診療、教育、研究および社会貢献の4分野において、バランスの取れた活動を継続、発展させる必要があります。診療分野においては、入院患者に対する服薬指導件数はほぼ上限に達しており、今後は退院時指導件数の増加と指導内容の質の向上を目指します。来年1月に中央診療棟Bが稼働し、同時に第7次医療情報システムが導入される予定です。これにより外来化学療法室の治療ベッド数は約3倍に増加し、手術件数の増加も予想されています。外来化学療法室や術前外来などの特殊外来における薬剤師による薬物治療管理(薬剤師外来)の要望は益々増えると予想されることから、臨床ニーズに応えられるように専門薬剤師の育成に努めます。教育および社会貢献活動としては、薬剤師レジデントプログラムの充実・改善を図りつつ、薬剤師の卒後初期研修制度の必要性、重要性を社会に訴えていく必要があります。その第一段として、今年度末を目途に名大病院薬剤師レジデント制度の自己評価と外部評価を実施し、その結果を公表する予定です。研究では、これまで以上に質の高い基礎および臨床研究を推進していきます。また国内外の研究グループと実施中の共同研究を発展させ創薬につなげていきたいと思います。 その他、平成32年(2020年)9月20-22日の3日間、年会長として日本医療薬学会年会を名古屋国際会議場で開催する予定です。名大病院薬剤部としては平成9年に鍋島俊隆先生が主催されて以来、23年ぶりの担当になります。鶴天薬友会会員の皆様にはご支援、ご協力を宜しくお願い申し上げます。

 以上、名大病院薬剤部の現状と将来展望について紹介させていただきました。今後とも薬剤部職員一丸となって業務改善と自己研鑽、医療薬学研究に取り組む所存です。鶴天薬友会会員の皆様の一層のご支援を宜しくお願い申し上げます。

平成29年8月16日 鶴天薬友会 会長
名古屋大学医学部附属病院 教授・薬剤部長 
山田清文


平成23年度・鶴天会写真1

鶴天薬友会総会での集合写真
平成23年11月3日 ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋