循環器内科学
室原 豊明

 我々名古屋大学医学部循環器内科学講座は室原豊明教授のもと、分子生物学的な基礎実験から大規模な臨床研究に至るまで、循環器学の研究を精力的・包括的に行っております。
また、「生活習慣病の予防指導から先進医療の血管再生療法まで」をキャッチフレーズとして虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)・不整脈・心臓弁膜症・心筋症・肺高血圧や末梢動脈疾患など各種心血管病を対象に診療を行っています。
これらの広汎な研究・臨床を展開するため我々の教室にはいくつかの研究グループが存在します。そのグループ内でさらに個人が自分の専門テーマに積極的に取り組んでいます。

再生医学グループ

 私たちはこれまで「血管の再生」に関する研究を行ってきました。
手の施しようの無い(他に治療法が無い)程度に重症化した末梢動脈閉塞性疾患の方に、自己骨髄細胞を移植することにより毛細血管を再生し、皮膚の潰瘍や激しい痛みを改善させる、という治療です。閉塞性動脈硬化症やビュルガー病の重症の方が対象となります。
最近では自己皮下脂肪組織由来幹細胞を使った血管再生に関する研究・臨床応用も行っています。
また基礎医学的研究では、血管再生を直接刺激する血管増殖性因子に関する研究や、遺伝子・細胞治療の可能性。脂肪細胞から出る蛋白質であるAdiponectinや、細胞骨格を形成する蛋白質(Girdinなど)と血管再生や動脈硬化の関わりに関する研究を行っています。
またiPS細胞を使った血管再生の可能性についても京都大学と共同で研究を行っています。

不整脈グループ

不整脈の心臓電気生理検査、カテーテル・アブレーション、ペースメーカ、埋込型除細動器(ICD)、心臓再同期療法(CRT, CRT-D)などの臨床と不整脈関連の臨床研究、基礎研究を行っています。2012年にアブレーション438件の他、ペーシングデバイス手術140件と極めて積極的に臨床を行っております。また研究面では不整脈の発生とQT時間、自律神経の関わりや、ブルガダ症候群などの遺伝子病について解析を行っております。また、心臓再同期療法のレスポンダーを予知する方法を解明するなど、CRTに関する臨床研究も行っております。基礎研究では、心不全ウサギを用いて薬物の心房細動抑制効果の検討を行っております。

心不全グループ

特発性心筋症に対する病態解明、治療法の研究を中心として、これまで多くの成果を挙げてきました。
 肥大型心筋症や拡張型心筋症は、突然死・心不全死も多く臨床的課題が山積しており、研究の発展が望まれる疾患です。
 我々のグループでは、生理学的研究手法に加え分子生物学的手法を導入し、心筋症を始めとする心筋疾患の病態解明に取り組んでいます。また、運動負荷による心予備能評価としての心肺運動負荷試験や、MRI, CT, 核医学などを用いた画像診断も診療・研究に取り入れています。

CKD(慢性腎臓病)地域連携システム講座

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は透析治療が必要となる末期腎不全の予備軍であるばかりか、心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患の重大な危険因子となっています。日本のCKD患者数は約1330万人であり、この中で病院での診療を必要とする蛋白尿陽性か推算糸球体濾過量(eGFR)50ml/min/1.73m2未満の患者数のみでも600万人にものぼります。
日本腎臓学会は、CKD患者の診察はかかりつけ医と専門医の診療連携を通じて行うことを推奨しています。そこでCKD地域連携システム講座と診療連携することで、(1) CKDから透析への末期腎不全に至ることを阻止する、(2) CKDに関連した心血管疾患を予防・治療する。(3) CKD患者の生命予後を改善し良好なQOL(生活の質)を維持することを目的として、研究を行います。

虚血性心疾患グループ

冠動脈硬化の成因に迫る研究を、冠動脈内超音波(IVUS)を主に用いて行っています。特に、冠動脈硬化の主要な危険因子である糖尿病や、脂質代謝異常、高血圧症、また最近話題の慢性腎臓病(CKD)をからめながら検討を行っています。
IVUSの技術進歩により、最近は動脈硬化の質を判定できるようになって来ました。我々はそれらのデバイスを駆使し、CKDなどの冠危険因子と、急性心筋梗 塞や不安定狭心症といった急性冠症候群の原因となる不安定プラークには深いつながりがあることを提唱しております。また、脂質を低下させる薬や血圧を下げる薬の投与で、冠動脈硬化を改善させる効果や、不安定プラークをより安定化させる効果を得られること等を示し、臨床的に虚血性心疾患を有する患者さんの治療に応用しています。
またOCT (Optical Coherence Tomography:光干渉断層法)から得られるデータも診療・研究に取り入れています。OCTは赤外線光、光繊維、最新信号処理技術を用いた高解像度の画像構成技術で、最大の特徴はその高い解像度で,IVUSの解像度が100〜150μmであるのに対し,OCTは10〜15μmと10倍優れています。そのため,IVUSでは不可能であった血管の内膜・中膜・外膜の判別が可能で,プラークの性状や線維性被膜の厚さなども測定することができ、臨床的に使用することで虚血性心疾患患者さんの治療に対して、最良の治療を提供することができるようになると考えています。

臨床疫学グループ

日本は欧米に比べて大規模臨床疫学研究が20年以上遅れていると言われています。これはこのような臨床研究に国が力を注がなかった(支援してこなかった)、あるいは新しい薬剤の国内承認が外国に比べて大幅に遅れていた(いわゆるドラッグラグ)などといった政策のまずさにも原因があります。
私たちも豊富な関連病院の先生方、開業医の先生方と協力して臨床研究・疫学研究を行っています。

メタボリックシンドロームグループ

「脂肪は身体の指令塔である」という観点から、脂肪組織から分泌されるホルモン(アディポサイトカイン)の心臓、血管での役割を検討しています。
1995年頃より、脂肪組織は数多くのホルモンを分泌する内分泌臓器であるという概念が確立し、現在では、アディポネクチン、レプチン、TNF-α、レジスチンなどと病態との関連が明らかにされてきました。我々は、その中でもアディポネクチンに着目して主に研究を行っています。我々は、心臓における働きとして、心臓肥大や心筋梗塞を抑制する作用を有する事を明らかにしました。また、血管における作用として、アディポネクチンが血管新生作用を有する事や、そのメカニズムとして血管内皮前駆細胞の動員や機能亢進が関与していることを明らかにしました。このように、心血管病に対する予防や治療として、体内の善玉ホルモン「アディポネクチン」を増やす事が有効であると考え、アディポネクチン増加作用に関する研究も行っています。