高齢者に多い尿失禁タイプとして、腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、溢流性尿失禁、機能性尿失禁があげられる。腹圧性尿失禁は、次項の女性腹圧性尿失禁でも述べるように、尿道抵抗の低下により膀胱の収縮を伴わず、腹圧による膀胱内圧の受動的上昇に伴い尿が漏れるものである。高齢女性では、閉経後の女性ホルモン低下により、尿道粘膜が萎縮し、膀胱頸部から近位尿道の密着性が障害されることが腹圧性尿失禁につながることがある。また、男性高齢者では腹圧性尿失禁はまれであるが、前立腺肥大症に対する経尿道的手術、あるいは前立腺癌に対する根治手術による外尿道括約筋の医原性障害が腹圧性尿失禁の原因となることがある。切迫性尿失禁は、蓄尿時に不随意の膀胱収縮(無抑制収縮)が起こり、尿意があるとがまんできずに尿が漏れるものである。膀胱の無抑制収縮の発生には、脳血管障害、脳・脊髄などの中枢疾患の疾患、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞といった疾患のほか、加齢による膀胱変化によっても起こる。溢流性尿失禁は、尿排出障害により膀胱内に常に多量の残尿が存在するため、尿が常にあふれて漏れる状況であり、下部尿路閉塞疾患のほか、膀胱の収縮障害により起こる。高齢者における膀胱収縮障害は、加齢による膀胱の変化としてもみられ、さらに糖尿病などの自律神経ニューロパシー、腰部椎間板ヘルニア・腰部脊椎管狭窄症・馬尾疾患などの末梢神経障害の結果として起こる。機能性尿失禁は、下部尿路機能に異常がなくても、痴呆による排尿習慣の喪失やADLの低下(極端な例は寝たきり状態)によりトイレで排尿できないため、尿を漏らすものである。高齢者では、上述の種々のタイプの尿失禁が重複して存在することが少なくない。また、高齢者における特徴因子として、(イ)脳血管障害、脳・脊髄神経疾患、糖尿病など神経因性膀胱に関与する疾患の罹患率が高いこと、(ロ)加齢による下部尿路機能の変化が起こること、(ハ)前立腺肥大症の罹患率が高いこと、(ニ)夜間多尿傾向があること、(ホ)痴呆の存在、(ヘ)身体運動障害(ADL)低下の存在、(ト)下部尿路に作用し得る薬剤の内服、などがあげられ、特に最も大きな特徴としては、これらの複数の因子が尿失禁に関与することが多いことがあげられ、これが高齢者における尿失禁の診断・治療を困難にしている。