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教授の独り言
●● 007 高等研究院 「NAGOYA UNIVERSITY TOPICS 研究ナウ」より
動脈硬化性疾患の病態解明と創薬
私はこの春から新設された医学系研究科の神経・腫瘍センターで神経情報薬理分野を担当しています。本年の2月からは、高等研究院の流動研究員として「動脈硬化性疾患の病態解明と創薬」というプロジェクトを展開しています。
平成13年度の医学統計を見ますと、1年間に亡くなった方の死亡原因の約4分の1は悪性新生物、いわゆる癌であることがわかります。一方、動脈硬化性疾患の脳卒中(脳血管疾患)と心筋梗塞(心疾患)を合わせると約4分の1になります。これらの動脈硬化性疾患は慢性疾患であり、その治療(内科的治療および外科的治療)にかかる医療費は膨大であり国家予算を圧迫しつつあります。しかしながら、動脈硬化性疾患の多くは抜本的な治療が確立されていない疾患群であります。
そもそも動脈硬化とは何なのでしょうか。血管は人体における輸送路であり、鉄道網や道路網のようなものと考えていただければよいでしょう。この輸送網を介して、酸素や栄養素を含む血液が身体の隅々にまで運ばれます。血管が動脈硬化によって狭くなり閉塞すると、血液が運ばれなくなり組織が壊死を起こします。心臓の栄養血管である冠動脈が閉塞すると心筋梗塞が起こり、脳血管が閉塞すると脳梗塞が起こるわけです。動脈硬化は高血圧の大きな要因にもなっています。動脈硬化が進行すると血管がぼろぼろになってきて、破れやすくなります。脳血管がやぶれると、脳出血が起こりひどい場合は死に至ります。
何故動脈硬化が起こるのかはよく理解されていませんが、老化現象と密接に関連していることがわかっています。18歳ぐらいになると動脈硬化が始まっていることもわかってきました。最近の研究から、動脈硬化の初期病変は血管の内側を覆っている血管内皮細胞が、何らかの傷害を受けて起こると考えられています。その結果、血液細胞(主に白血球)が反応して血管内膜下に侵入して炎症を起こし、動脈硬化を起こすと考えられています。後期には、血管の収縮を司る血管平滑筋細胞が血管の内側に侵入して、増殖することによって、物理的に血管が細くなって詰まってしまうわけです。動脈硬化病変では血管収縮が起こりやすく、収縮が起こると、血管が完全に閉塞していなくても心筋梗塞や脳梗塞が起こると考えられています。
図1:Rho-Rho-キナーゼによるミオシンの活性制御機構
アンギオテンシンなどの血管収縮誘発物質が作用すると、細胞内のカルシウム濃度が上昇して、カルモジュリンにカルシウムが結合します。その結果、ミオシン軽鎖キナーゼが活性化されます。ミオシン軽鎖キナーゼがミオシン軽鎖をリン酸化すると、ミオシンが活性化されます。一方、この際Rho-キナーゼも活性化されてミオシンフォスファターゼがリン酸化されて不活性化されます。そのため、ミオシン軽鎖のリン酸化レベルが上昇します。血管平滑筋の攣縮や細胞運動にはこのRho-Rho-キナーゼ経路が必要です。
平滑筋の収縮や細胞の運動がミオシンというモーター蛋白質によって推進されていることが知られています(図1)。 私共の研究室では、低分子量GTP結合蛋白質 Rhoがその標的蛋白質Rhoーキナーゼを介してミオシンの活性を調節することを明らかにしてきました。 Rho-Rho-キナーゼ経路が、平滑筋の異常収縮を介して冠動脈攣縮や高血圧などの病態と、白血球や平滑筋細胞の遊走を介して動脈硬化形成に密接に関与していることも明らかにしてきました(図1)。最近、Rho-キナーゼの阻害剤を用いて、ブタ冠動脈の血管攣縮や動脈硬化を抑制することに成功しました(図2)。この一連の研究を発展させて、高等研究院では「動脈硬化性疾患の病態解明と創薬」の研究を推進したいと考えています。
図2:Rho-キナーゼ阻害剤による動脈硬化形成阻害
ブタの心臓の冠動脈に局所的な炎症を誘発すると、動脈壁が肥厚して内腔が狭くなります(動脈硬化)。その内膜には白血球や平滑筋細胞が遊走しています。あらかじめRho-キナーゼ阻害剤を経口投与しておくと、このような肥厚は起こりません。肥厚が起こらない理由は、白血球や平滑筋細胞の遊走が阻害されているからだと考えています。
一方、RhoファミリーのRac/Cdc42の標的蛋白質としてIQGAP1を同定しており、IQGAP1が細胞間接着や細胞極性を制御するメカニズムも明らかにしつつあります。最近、Rho-キナーゼの脳内基質タンパク質としてCRMP-2という蛋白質を同定して、CRMP-2が神経細胞の軸索・樹状突起の運命決定を担っていることを発見し、神経細胞の極性や神経回路の形成機構に強い興味を持っています。
ここで紹介しましたように、私共の研究の促進には多彩なスキルやバックグラウンドが求められます。実際、医学部、理学部、農学部、薬学部、工学部卒の大学院生や教官が学部や大学の枠を越えて参加しています。研究に少しでも興味のある人は是非気軽に研究室を訪ねてください。
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