小児生体部分肝移植


小児肝移植とは…
移植施設により異なりますが、小児肝移植を必要とする患者全体のおおよそ3/4が、(先天性)胆道閉鎖症という病気です。そのほかに、原発性硬化性胆管炎、アラジール症候群、先天性代謝性肝疾患、劇症肝炎などが、おもな小児肝移植の適応疾患となっています。
肝臓の原疾患のため生命を維持する肝機能が保たれないと判断された際に、肝移植が検討されます。胆汁の流れが悪くなるための黄疸、胆汁が肝臓にうっ滞することによって生じる肝硬変、腹水、消化管出血などの出血傾向、成長障害、高アンモニア血症による意識障害(肝性脳症)などが、移植を検討する目安になります。




小児生体部分肝移植
国内の肝移植のなかで、特に小児症例では生体肝移植に極めて依存しています。2010年の肝移植研究会からの報告では、国内の10歳未満肝移植は、脳死肝移植数 9例に対して、生体肝移植数は1,828例となっています。
2009年の法改正以後、脳死肝移植症例数が増加しましたが、体格差が著しい成人の臓器提供者(ドナー)から、小さい子供への移植は、特殊な術式(分割肝移植)を行う場合を除いて、不可能となっています。
そのような理由のため、小児生体肝移植は生体肝移植に依存せざるを得ない状況となっています。

生体肝移植とは、健康な人(生体ドナー)から一部の肝臓(グラフト)を取り出し、患者(レシピエント)に移植する方法をいいます。
生体ドナーの肝臓の大きさとレシピエントの体格(体重)などから、生体ドナーのどの部分の肝臓(グラフト)を用いるのかを決定します。小児症例では、外側区域といわれる肝臓の約1/4程度の部分を用いることが多く、年長児には肝臓の約1/3にあたる左葉グラフト、体格の非常に小さい乳児には外側区域をより小さくしたモノセグメント・グラフトを利用します。術式の決定は、術前の画像検査(ドナーのCT検査)などから決定します。


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レシピエントの手術は、まず肝臓をすべて摘出するところから始まります。
ただ、肝移植手術は、肝臓につながっている4つの構造物(肝動脈、門脈、肝静脈、胆管)を、新しい肝臓(グラフト肝)と本人の相対するもの同士をつなぎ合わせる(吻合する)手術ですので、それらをつなぐことが出来るようにしながら丁寧に肝臓を摘出します。同時進行している生体ドナーからのグラフト肝の準備が出来れば、肝静脈、門脈、肝動脈の順につなぎ合わせていきます。最後に、胆管をつなぎ合わせますが、小児症例の場合はグラフトの胆管と小腸をつなぎ合わせることが多いです。


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肝動脈吻合の様子




術後経過について
非常に大きな治療ですので、術後経過の個人差は大きいです。順調な経過の場合で、術後1-2ヶ月で退院となります。

移植手術直後は、集中治療室(ICU)での管理となります。
手術終了時は、意識もなく、呼吸も自力で出来ない状態のため、人工呼吸器を用います。
集中治療室に在室中は、全身状態(心臓、呼吸、腎臓、肝臓)のチェックと、手術操作後のチェック(出血やつないだ血管の血流の状態など)を行います。順調であれば、徐々に呼吸も自力で出来るようになり、人工呼吸器を離脱します。非常に小さい子どもの場合、大人の大きなグラフト肝が胸の方を圧排し、呼吸状態が不安定となることがありますが、そのような場合は、人工呼吸器管理が長期化することがあります。
拒絶反応を抑制する免疫抑制剤は、移植手術翌日から開始します。
全身状態が安定していれば、数日で集中治療室を退室し、一般病棟の個室へと移動します。
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外科系集中治療部の様子


その後も、肝機能と血流のチェックを頻回に行いながら、問題が発生していないが確認していきます。
肝機能は血液検査で、血流はエコー検査で行います。
肝機能などの悪化がある場合は、肝生検などのさらに詳しい検査を行う必要があります。
術後1週間目ぐらいから起こりやすいトラブルは、拒絶反応と感染症です。移植直後から免疫抑制剤の投与が開始されていますが、その投与量の調節が、拒絶反応の抑制には重要で、不足している場合に拒絶反応が起こります。多くの拒絶反応は、免疫抑制剤の増量で改善します。また、免疫抑制剤を使用していることもあり、感染症にかかりやすくなっています。拒絶反応と感染症のバランスを保つよう免疫抑制剤を調節します。

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エコー機械




退院後の生活について
退院後は、できるだけ他の子どもたちと同じ生活を送ってもらうようにしています。移植を受けたために生活上の制約が多くなったのでは、肝移植のメリットがありませんから…
ただ、肝移植後は免疫抑制剤を服用し続けることになります。免疫抑制剤の種類や量は、個人差があります。決められた薬をきっちりと服用続けることが、移植肝の機能を保つために大切です。薬の飲み忘れなどで、拒絶反応が起こる可能性がありますので、薬の管理は重要です。
定期的に外来で肝機能のチェックを行い、移植肝の状態が安定していることを確認します。問題が認められる場合は、その都度、原因を確認して、治療に当たります。
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代表的な免疫抑制剤