診療科のご案内

膵がん

世界トップレベルの手術

 膵臓の手術は、術後膵液漏などの合併症の危険が大きく、また非常に専門的な技術・知識が要求され、決して簡単なものではありません。前教授であった中尾昭公先生は膵臓手術の日本における第一人者であり、アンスロンバイパスカテーテル(門脈血を下大静脈にバイパスし、術中の出血量を減らす)や手術中のがん細胞散布を防ぐNon-touch isolation法などの業績を残されました。当教室では約30年間で1000例弱の膵切除手術を経験しました。これは、日本国内のみならず、世界でも有数の手術症例数です。現在、当教室では、これらの業績に更に最新の知見・技術をとりいれ、藤井努助教を中心に診療を行っております。

藤井 努 助教

  1. 膵がん手術の新展開
     以前は、手術だけが膵がんの治療とされていました。そのため、広範囲リンパ節郭清、動脈合併切除など、拡大手術が盛んに行われました。しかし残念ながら、いくら激しい手術でも、膵がんの生存率を上昇させることはできませんでした。つまり、「手術で切除できた=膵がんが治る」ということではなかったのです。激しい手術により、著明な体重減少や栄養障害などで、その後の化学療法ができずに短い最期を向かえてしまうことも少なくありませんでした。  もちろん、現在でも手術で切除することは極めて重要です。しかし手術だけでなく、術前や術後の化学療法をうまく組み合わせることによって、はじめて良好な予後を得ることができます。ひどい下痢や栄養障害を起こさないようなバランスのとれた手術に加え、放射線治療、抗がん剤による化学療法、栄養管理などを上手く組み合わせて行うことが、膵がんを克服するために最も重要なことだと考えられています。
  2.  
    当教室の膵がん治療の特徴
    1. 従来の膵頭部がんの手術では、胃の半分を同時に切除していました。そのため、食事が十分摂れないなどの後遺症が残ってしまいました。当教室では、過去のデータの分析から、もっとも栄養状態を良好にするのは、胃を9割残す亜全胃温存膵頭十二指腸切除術であることを発見し、その知見を取り入れています。もちろん、がんの根治性には問題なく、それどころか、栄養状態が良好となるせいか亜全胃温存術式がもっとも生存率が良好であるという分析結果でした(Fujii T, Ann Surg Oncol 2011)。
    2. 従来の手術では、上腸間膜動脈周囲の神経叢を半分切除してしまうのが正しいとされていました。しかし、この神経叢を多く切除すると、手術後にひどい下痢が続き、体重は激減します。この栄養障害により、術後の抗がん剤治療ができない、ということもよくありました。しかし、この神経叢を切除したからといって生存率が改善するという医学的データはありません。当教室では、術前の画像診断や手術中の病理診断により、切除がどうしても必要なのか、切除する必要がないかを十分検討し、状況次第では神経叢を温存する手術を行っています。この方法により、手術後の患者のQOL(Quality of Life:生活の質)も良い状態で維持できますし、抗がん剤治療の副作用にも苦しむことなく続けられると考えています。
    3. 膵がんに対する抗がん剤治療は、一般的にはジェムザールという点滴と、ティーエスワンという内服薬が用いられています。しかし残念ながら、これらの薬に抜群の効果がある訳ではありません。当教室では、新しい治療法として、腫瘍の状態によっては、手術前に放射線治療+抗がん剤治療を行うことにより、切除不可能と考えられた病巣を切除可能としたり、生存率を改善させる試みを積極的に行っています。また、膵がん手術後の抗がん剤治療として、術直後5-FU門脈内投与+ジェムザール・ティーエスワン併用療法という新しい治療法を臨床試験として行っています。 膵がんという病気は、「拡大手術+一般的な抗がん剤治療」では十分な効果が得られないことはもはや明白であるため、新しい治療方針・方法に積極的に取り組んでいます。当教室では、名大病院の放射線科、化学療法部、消化器内科、栄養管理部などの専門家チームと共同して膵がん治療の改善・進歩を目指しています。

  3. その他の膵腫瘍
     その他に外科的治療が必要な膵疾患として、膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、内分泌腫瘍、腫瘤形成性膵炎などがあげられます。これらの疾患の中で悪性度が低いものに対しては、将来の糖尿病発生など後遺症を防ぐため、膵中央切除術などの低侵襲手術を行っています。低侵襲手術といっても、膵がんに対する手術と同様に高度な技術と術後合併症への対応が必要ですが、細心の配慮をもって診療にあたっています。
  4. 膵手術後の合併症への取り組み
     膵手術は、術後膵液漏などの重篤な合併症が非常に高頻度に発生します。当教室における過去の膨大な経験の蓄積から、合併症対策には最善の方法を行っておりますし、膵吻合術など手術方法に関するいくつかの臨床試験・前向き研究を行い、手術成績の改善に積極的に取り組むとともに、外科医学の進歩に貢献すべく努力しています。  膵手術後のもっとも重篤な合併症は、膵液漏から発生する血管自己融解による大出血です。これも含めた様々な重篤な合併症を、放射線科や消化器内科などの優れた専門家と共同して治療にあたることができるのも、大学病院の強みと考えています。
  5. 良性・低悪性度膵腫瘍に対しては、より体に負担の少ないとされる腹腔鏡を用いた膵切除も開始致しました。
過去の多くの業績・経験に、さらに最新の技術、最先端の知識をとりいれて、膵臓外科チームは、より安全な手術・生存率の向上のために日々奮闘しております。

 

アンスロンバイパスカテーテル

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