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肝胆膵手術の術中写真入門
器官調節外科 神谷順一
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◆前置き
◎撮りましょう
肝胆膵領域の発表は映像第一主義的です。症例報告で、術中写真がないために苦しい思いをしたことはありませんか?術式の発表で肝心の術中写真が撮れてなくて困った、ということはありませんでした?
この文章はそんな人のために作りました。ぜひ活用してください。
術中写真は日常的に撮るべきです。報告できそうな症例だけ狙っていても上達しません。余裕があれば肝胆膵すべての症例で撮りましょう。取るに足らない症例は存在しない、そう思ってください。どうってことのない症例は、どうってことのない頭脳によって作られるのです。撮影していると、なんかかんか撮るに足る所見が出現します。撮りましょう。
◎誰が撮る?
消化器外科医です。カメラの進歩で撮影自体は手軽にできます。カメラの知識や経験はたいして必要ありません。カメラのマニュアルを少し、そしてこの文章を読めば十分です。いい術中写真を撮る上で重要なのは局所解剖・外科病理・手術手技の三つの知識です。手術に必要なものと同じなのです。
術中写真の撮影は切除標本の撮影ほど手間はかかりません。それでいて標本写真より強いインパクトを与えます。消化器外科医にとっては修得しておいて損のない技術といえます。もちろん鶴舞町の町内では必須となります。
◎術中写真はそれなりに多彩です
術中写真にはいろいろな目的があります。それぞれに心構えを変えて撮影する必要があります。並べてみます。
1.開腹所見を記録するもの。開腹直後に撮影しないといけません。どの方向から撮るとよいか、よく見極めてください。必要であれば、患者さんの左と右からの2方向からから撮影します。
2.手術操作がすすんでから現われる所見を記録するもの。待ちかまえていないと決定的な場面を逃してしまいがちです。外科医は待てません。次の症例で撮ればいいと考えて、次の操作に進んでしまいます。そして次はやってきません。カメラ係のあなたはハンターのように所見を捕らえてください。
3.手術操作あるいは手術手技を撮影するもの。こまめに操作をおいかける必要があります。術者との打ち合わせが必須です。撮影時に呼吸が合わないと失敗しかねません。
4.切除後や再建後の写真。完成像です。じっくり撮りたい写真です。2方向から撮っておくとよいでしょう。
この他にもあると思います。自分が何を撮ろうとしているのか自覚して撮ってください。
◎自分を見ている自分
術中写真は提示するための写真です。未来の聴衆の目を意識して撮るべきです。これでピンときてくれるかな、とか、これで受けるかな、などと考えながら撮影してください。無我夢中の写真はいけません。
別の言い方をします。ファインダーを見ながら聴衆になればいいのです。自分が学会場でこの写真を見たらどう思うか考えてください。そして構図を決めてください。あるいは、何を撮ったか明言できる写真を撮ることです。言えないようではまずいです。
ファインダーをのぞき込むとあせってしまって、そんなことはできない?慣れることで克服できます。どんどん撮ってください。平常心で写真を撮れるようになります。
ところで、学会発表で術中写真が出てきたら構図などを批評しましょう。いい写真であれば、なぜいいと思えたのか考えます。悪い場合にも理由を考えてください。さらに、どうすればよかったか考えます、ここまで考えておけば次に生きます。
◎できれば打ち合わせを
術者の心遣い一つで術中写真は格段によくなります。撮影者だけが意気込んでいても、片手落ちなのです。共同作業と心得てください。手術が始まったら術者か撮影者のどちらかが監督になってください。その人が、撮影のタイミングや場面を決定していくのです。もたれあいになったり互いにそっぽを向いたりして重大な場面を逃したらつまりません。打ち合わせておけば完璧です。
術者があなたで部長とか教授、撮影者が内気なレジデントだったりすると、あなたが指示しないと撮ってくれないでしょう。危険です。大事な場面を落としてしまいかねません。あらかじめ言っておきましょう。ここぞと思う少し前に声をかけなさいと。術前にどことどこを撮るか打ち合わせておけば理想的です。
逆に、あなたがレジデント、術者が部長とか教授で、どうも肩が凝るなあ、という状況があるかもしれません。どんどん声をかけて撮るしかありません。術中写真を撮っておこうという外科医に気難しい人はいません。いないでしょう。そう思います。
◆機材を説明します
◎カメラとフラッシュ
われわれはフジのFinePix S1Proを使っています。レンズは60mmマイクロニッコールです。カメラの機構上90mmレンズに相当します。リングフラッシュはフジおすすめのYUZOを付けています。これで、あなたは構図を決めてシャッターを押すだけ状態になります(一応)。
いずれも電源は基本的に単三電池です。
S1Proには本体に小さなフラッシュが付いています。でも術中写真ではレンズの前に付けるリング・フラッシュがベストです。レンズのまわりから光が出るので影が写りません(このフラッシュで顔を撮ると、平坦に写ってまずいことになるそうです)。本体のフラッシュを使うと光が斜めに入りますから、影が写ってしまうはずです。これは術中写真にとっては困りものなのです。実は、接写入門書の忠告に従って一度も使ってないのですが。
◎カメラケースを作りました
わたしたちの病院では手術室にカメラを起きっぱなしにはできません。専用のカメラボックスに入れて持ち運んでいます。大きくて頑丈な箱型です。腰をおろしても大丈夫なほどです。足台兼用にしたわけではありません。フラッシュとコントロールボックスを装着したまま収納することが目的なのです。
電源のはめ込み部がずれると電気接点が接触不良になります。これでトラブルが起きます。いい写真が撮れません。少しでもトラブルが減るように願いを込めて専用ボックスを作ったのです。
◎フラッシュの電池交換は早めに
充電にもたつくようになったら交換です。場を作って待っている術者はすぐにいらつき始めます(自分の胸に手をあてて考えてみてください)。それでなくても、あなたはあせっているはずです。充電完了マークが出るのを待ってシャッターを押す。そんなことを繰り返していたら、いい写真は撮れません。
もったいないようですが気持ちよく仕事をするために潔く交換しましょう。スライド時代にはパシャパシャ撮っていましたよね。実はスライド1枚と単三電池1本はだいたい同じ値段なのです。どうです。気楽になったでしょう。
◎機材も消耗品です
15年ほど前に術中写真を立体撮影しようとしたことがあります。同じ機種のカメラとフラッシュを2台準備しました。5度ほど内側に向けて固定し、カシャカシャ撮って立体撮影になるはずでした。もちろん立体的には見えましたが片方が黄色っぽいのです。いろいろ聞いてもらったところ、片方のフラッシュが古いのではないか、という話がでてきました。
フラッシュは1年とか2年とか使っていると発光の色温度が下がってくるそうです。新しいのに交換したら黄色っぽくならないのです。それ以降われわれはフラッシュは1年で交換することにしました。
精密機械というものは、ゆっくり”くるい”が生じてくるそうです。そのため”くるい”はなかなか発見しにくいのです。気が付いた時は遅いと思ってください。カメラとかレンズも何年かおきに交換した方がいいのかもしれません。
◎記憶媒体はコンパクトフラッシュ(CF)にしました
はじめはスマートメディアを使っていました。購入したときにカメラ本体と一緒に梱包されていたので信用したのです。ところがスマートメディアは不調でした。記憶しない、思い出さない、カメラのほうはスマートメディアを認識できなくてごねる、ということを繰り返しました。
ひょっとして、と思いついてCFに交換しました。するとトラブルは起きません。おそらくは接触の問題だったのでしょう。手術室はともかく医局はホコリの多いところですから。
◆CFのこまごま
◎小さい容量のを使っています
今や大容量CFの時代です。1ギガも出ました。でも64メガを使っています。私たちの設定では25枚撮影できます。妥当な枚数でしょう。
これより大きいCFを使いたくない理由があるのです。災害が起きても25枚程度にとどめたい、そう考えているのです。25枚撮ってCFが満腹になったら多くの人はデータをコンピュータに移します。そして多くの人はコンピュータにデータを移したら、コンピュータの画面で画像をチェックするでしょう。トラブルが発生していたら分かります。フィードバックが効きます。一例分全滅という事態に陥らずにすむかもしれません。
背面の液晶で分かるでしょう?真っ暗、真っ白は分かります。でもホワイトバランスの設定間違いとか、絞りの間違いとかは液晶ではなかなか診断できません。ぜひコンピュータの画面でチェックしてください。トラブル発見率は高くなります。もちろん知識がないと診断できませんけれども。
ということで、データはこまめにコンピュータに移しましょう。そして厳しくチェックしましょう。あとでまとめて、と不精していると一日分が全滅ということになりかねません。
◎症例ごとに使い分け
撮影する手術が2件以上の場合は症例ごとにCFを使い分けています。一枚のCFに2例とか3例の写真が混在すると整理で苦労します。トラブルが増えます。ということでカメラケースには予備のCFが3枚入れてあります。混乱しないためにCFにはドラゴンズとかタイガースといった名前をつけました。以前は女優さんの名前にしていましたが不評でしたので。
◎CFを抜き取る前に電源をOFF
撮影された写真は画像ファイルです。DSCF1234.JPGといった名前がつきます。数字は順に増えていきます。カメラは「CFに保存した最終ファイルNo.」を記憶するように設定してあります。CFを取り替えたら、その番号から続けてファイルNo.がついていくのです。「コマNo.メモリー」機能です。便利です。うっかり上書きして前のデータを消滅させてしまう、という事故が起こりません。
ですが、電源を切らずにCFを引き抜くと「コマNo.メモリー」は無効になります。というか、抜いたCFを差し込んだ時のメモリーから始まってしまいます。同じファイルが作られます。危険です。気をつけましょう。
もちろん記録中に引き抜くなどという乱暴なことは厳禁です。ファイルが壊れるでしょう。記録中は背面の小さな液晶にRECマークが点滅しています。気にしてください。
◎データを移した人はCFのデータを消去すべし
データの入ったCFがカメラケースに入っていたり、コンピュータの脇に放置されていると困ってしまいます。データを消去するとまずいことになるかもしれない、たいていの人はそう考えます。
コンピュータで撮影日を見てフォルダを探します。フォルダが見つかれば、ファイル名や画像をチェックして保存されているかどうか確認します。保存されていればCFデータを消去します。保存されていなければ保存ののち消去です。たいへんな手間です。
しかるべき場所にフォルダが見つからないと悲惨です。撮影日などから誰の写真か調べないといけません。そしてフォルダを作って保存です。嫌になります。こういうことをしでかす人に限って、とんでもない場所に保存してあったりします。苦労は徒労となるわけです。
保存が済んだらCFのデータは消してください。すみやかに消去してください。基本です。あたりまえです。
◆面倒な設定と撮影条件など
◎撮影の設定について
表示パネルの順にいきます。
ホワイトバランスはカスタム設定CUS.です。AUTOではさえない画像になります。マニュアルを読んで設定ください。感度はISOの400です。まあそんなところかな、ということで。
クオリティー(画質)はFineにしました。3040x2016の大きさで撮影すると1枚2.5メガになります。大きいです。でもハードディスクも大容量になっています。CDRだったら200枚以上収納できます。
ピクセル(画素数)は3040x2016にしています。ここまでは必要ないかもしれません。ディスプレイに表示できるのは1600x1200、液晶プロジェクタでは1280x960しかありません。宝の持ち腐れ状態です。でも印刷には有利だそうですし、せっかくの機能ですからね。
このほかはいじりません。STDです。
◎撮影条件とマニュアル
撮影条件は簡単です。われわれは、絞り優先オートで絞りを19にしています。フラッシュの方はAUTOです。これで、フラッシュがカメラの感光部と連動し適正な露出が得られるはずです。
絞り優先オートとはなんだろう、と思った人も多いのではないでしょうか。わたしが説明しようとしてもカメラのマニュアルから引き写すだけです。オリジナルを読んでください。カメラのマニュアルは、コンピューターのより数段よくできています。カメラを手にしてボタンに触れながら精読してください。ほうれんそうを食べたポパイのようにカメラに強くなります。保証します。
◎使う前にチェック
基本です。撮影前には設定と撮影条件を確認してください。きのう誰かがエクトプラズムを撮影したかもしれません。そして、たいていの人は設定を変えたら戻しません。そういうものです。使う人に不幸が降りかかるのです。とにかくチェックしてください。
CFが入っていることも確認しましょう。カメラ背面のカウンタを見てください。25になっていればOKです。0なら装着されていないのです。CFを入れずにシャッターを押したら記録されません。当然です。そのかわりにカメラがピッピッ鳴いて警告します。でも緊張していると耳に入りません。故障?壊した?動揺増殖打つ手全滅、術者イライラ、ついに・・・ということにならないように、きっちり確認しましょう。
◎コツをひとつ
いきなりクライマックスの写真を撮るのは危険です。とんでもない落とし穴が待っているかもしれません。肩慣らしが必要です。
開腹したらすぐに、たいした所見がなくても撮影しましょう。遠景と近景を2枚ずつがいいでしょう。開腹してしばらくは出番はないはずです。そのすきにデータをコンピュータに移します。画面で画像をチェックするのです。問題がなければよし、あれば対応します。ぜひどうぞ。
◎設定ではありませんが
画像の整理にはサムズプラスを使っています。ビレッジセンターのソフトです。2002年の時点で6.0Jで¥8820です。
◆術者の気構え
◎術者の心構え
術中写真は術者と撮影者の共同作品です。撮影するときには術者は手術操作を一時中断します。撮影のための場を作らなければいけません。これは極意のひとつです。
執刀医か第一助手が手術台から離れます。その位置に撮影者が入ります。残った術者が撮影の場を作成します。今大事なところだから適当に撮っててくれ、という態度はいただけません。手術を続けていたら、まともな術中写真は撮れません。肩ごしでは術野に近づけません。手や鉤がじゃまで構図も決められません。
撮影者をせかしてはいけません。手術で熱くなった頭を冷やす機会と考えてください。撮影者は緊張状態に陥っています。カメラを手にしたときから、手間取ってはいけないと思っています。意識するしないにかかわらず、アガっているのです。「落ち着いて撮れ」と声をかけてください。
◎「作る」というと聞こえが悪いですが
術野は料理でいえば材料です。いい材料は必須です。ですが、そのまま人前に出してはいけません。刺身でも魚を切ったり盛りつけたりしています。
手術の現場を撮った写真は術中写真ではないと思ってください。撮りたいテーマに沿って作った場を撮影したのが術中写真です。「場を作る」ということは術中所見を「生かす」ことです。
◎撮影の場を作るのは
手術の場を作るのに似ています。
手術がやりやすいような場は写真も撮りやすいです。たとえば肝門を撮るときには膵十二指腸を足側に引っ張ります。そして方形葉を鉤で頭側に引きます。肝彎曲部の結腸が落ち込んできますから足側に引きます。
血管にテープをかけてある場合には軽くひっぱります。テープをピンとさせるのです。たるんだテープはみっともないです。指示機能が弱ります。何本もある時は気をつけましょう。からまったりして見苦しくなりがちです。胆管断端などにかけてある支持糸も気をつけましょう。
浸出液や血液がたまっていたら取り除きます。ガーゼで拭き取るより吸引した方が手っとり早いです。じわじわ出血がある場合にはシャッターが押される直前まで吸引を続けます。誰かが「1、2、3」と合図してください。「2」で吸引嘴管が避難、「3」で撮影です。
◎術中写真の敵
ガーゼやタオルの白い色は写真の敵です。画面の中にあると目立ちすぎて視線を奪います。撮影範囲の外に出すか臓器の後ろに隠してください。
真っ白の手袋とか血まみれの手袋が画面に大きく入っているのも興ざめです。見たいのが手袋のはずはありません。場を作っている指の手袋がずりあがってひらひらしているのも見栄えが悪いですね。敵というほどではありませんが。
鉤もフラッシュの光を反射することがあります。鉤の屈曲部が一番光りやすいです。屈曲部はなるべく画面の外へ出した方が無難です。
◎撮影者を見張りましょう
撮影者は夢中になっていることが多いです。不潔にならないように見張ってください。術者の大事な仕事のひとつです。
リング・フラッシュが術野に触ることは普通はありません。でも注意は必要です。問題はコントロールボックスとリングフラッシュを接続するコードです。たわみがありますから気を付けてください。
術着も要チェックです。ふわふわしていませんか。
◎テーマの確認を
何がテーマか執刀医はよくわかっています。いるはずです。でも撮影者はテーマを誤解しているかもしれません。撮影者に再確認していきましょう。言葉で十分なことも多いですが撮影範囲を指で示すと効果的です。親指と人指し指で”L”を作ります。撮影範囲を両手で箱型に示してください。
もしテーマが二つあれば、構図を変えて撮ります。
しつこいようでも確認してください。お互いの身のためです。術中所見は現れては消えていきます。逆戻しはできません。術後にこんなつもりではなかったと悔やんでも遅いのです。
◆さあ撮ってください
◎撮影者の心構え
呼び出されて手術室に駆け込み、あたふたと構図を決めてシャッターを押した、ということはありませんか?これでは大きく減点です。術前にどの場面を撮るか、執刀者と打ち合わせておくくらいの気構えが必要です。
重大場面にさしかかったら出番です。執刀医の頭からは写真撮影のことなんかふっとんでいるかもしれません。水を差すしかないです。声をかけましょう。人間関係が心配ですか。術前に入念に打ち合わせておけば危機を回避できます(と思います)。
切断してしまったものはつながりません。吸ってしまったものは戻りません。うるさいようでも決定的瞬間の一歩手前で声をかけましょう。正論を口にするのです。あっけらかんといきましょう。正論をおどおど口にするとまずいことになります。そうなんですよ、執刀医は心が狭いんですわ、正しいことを言っても叱られたりするんですよ、どうしても小声になりますよね、でも口にしておかないともっと叱られますからね、と宣言したのと同じことです。大きな声なら、あっ忘れてた、ですみます。
◎撮る位置は
患者さんの左が第一選択です。肝右葉の授動の後とか肝右葉切除の後などでは、右から撮ると、下大静脈や肝切離面をうまく撮影できます。
足台は必要です。ぐらつかない頑丈なのを使って不安なく撮影してください。
第一助手や術者の視線の延長上から撮った術中写真は理解しやすいです。学会で真上から撮ったと思われる写真を見ることがあります。慣れないせいなのでしょうがピンときません。
足台を高くしても見たいものがうまく視野に入らないこともあります。手術台の右をアップしてもらってください。少し傾けるだけでずいぶんよくなるものです。
◎例外状況
肩ごしに撮らないといけないこともあります。門脈再建などの血行再建の途中を撮ろうとしたら肩ごしに撮るしかありません。第一助手と第二助手の肩の上から撮影します。吻合を中断して撮影しろとはいいません。
「フラッシュが光ります」とか「撮ります」と術者に声をかけて撮っていきます。縫い代を確認する時など術者の手の動きが止まる瞬間があります。その時がシャッターを押すチャンスです。
◎無影灯はどうしましょう
近接像(アップ)ですとフラッシュの光が無影灯や天井のライトの光を圧倒します。消さなくても問題ありません。明るい方が構図を決める際に不自由しません。
問題は遠景です。フラッシュの光が術野を支配しきれず無影灯の光が強くあたった部分が黄色がかったりします。遠景の場合は、無影灯の焦点をぼかすか術野の外を照らすようにします。消す必要まではありません。暗すぎると構図をチェックする際に疲れます。
◎姿勢が大事です
右手でカメラのボディを持ちます。左手はレンズを支えます。左手でボディの左を持ってはいけません。ぐらつきやすくなるので厳禁です。両肘は体にくっつけます。脇が甘いと不安定になります。そしてファインダーをのぞき込んで構図を決めます。
シャッターを押したときにカメラがぐらついてはいけません。写真がブレます。ブレは写真の敵です。ちょっと見にはピンぼけのように見えます。でも、よく見ると違います。いくつかの粒が同じように変形していたらブレです。カメラがぐらついたのです。
踏み込んでください。腰が引けているとかえって不潔になりやすいです。そしてカメラがぐらつきやすくなります。
◎で、何枚ずつ撮りましょう
一つの構図に2枚ずつです。1枚ではブレた写真しか残らない危険があります。
大事なことは残り枚数をチェックしていくことです。一枚撮ったところで、あっメモリーの空きがなくなった!では気まずくなります。
◆構図です
◎警戒しないでください
原則は簡単です。説明は面倒です。難しいです。
◎オートフォーカスの困ったところ
S1proは視野の真ん中でしかピントが合いません。構図第一主義でいくと、中央から離れたところでピントを合わせたいという局面があります。フォーカス・ロックという機能を使って切り抜けてください。マニュアルを読んで覚えておくことです。
でも術中写真では画面中央でピントを合わせた写真が自然です。このあたりは標本写真と違います。気楽にいきましょう。
◎使われ方を考える
これも極意の一つだと思っています。誰がどう使うか分かっていれば撮りやすいものです。目的や意図がはっきりしているので、理解しやすい写真を撮れるからです。
誰がどう使うか分かっていない場合でも、この写真はどういう使われ方をするだろうか、などと考えながら撮影してみてください。すっきりした写真になると思います。
◎縦か横か
基本的に横長にしましょう。この場面では縦長しかない、という時だけ縦長にしてください。その時も余裕があれば横長のも撮っておいてください。画像はコンピューター画面に表示されます。横長です。縦長で撮影すると両わきが空いてしまいます。縦長はよほどの場合とわきまえてください。
◎横のものは横に、縦のものは縦に、
横走するものは上下の枠に平行に、縦走するものは左右の枠に平行にということです。例を挙げれば右肝動脈は画面上で水平に、左肝動脈は垂直にということです。もちろん、この二つは常に直角をなすわけではありません。重視する方を水平あるいは垂直にします。
画面の中の主な構造物のうち一つでも水平あるいは垂直になっていると、オリエンテーションをつけやすいのです。分かりやすくなります。人間の眼は水平や垂直に敏感です。そういうものに最初に目が行くのです。それが有名脈管であれば一瞬で場面を理解できます。たとえば、下大静脈が斜め45度になっている写真より垂直あるいは水平に写っている写真の方が理解しやすいのです。
術中写真は世界観の変革をせまるといった性格のものではありません。新しい知見とか、これぞという証拠を示すものです。そして、それは血管造影やCTと共通する枠組みの中で提示すれば、早く分かってもらえます。右肝動脈は通常水平に走行していますし、下大静脈は垂直に走っています。こういった刷り込まれたイメージを利用するのです。
◎遠景?近景?
術中写真を撮り始めるとアップの方向に走りがちです。アップはほめられることが多いです。うまく撮れると自分でもうれしくなりますし。ですがアップは全体像と組み合わせた時に真価を発揮します。オリエンテーションがつかないようでは困ります。また、近づきすぎて大事なものが欠けていても片手落ちなのです。
この場面は遠景も必要なのではないか、と常に点検してください。撮ってなくて提示しないのと、撮ってあって提示しないのでは余裕が違います。
◎ものが取り去られた空間を含めた写真も大事です
拡大肝左葉切除・尾状葉全切除のあとの残った右葉だけ撮影された写真とか、拡大右葉切除・尾状葉切除のあとの左葉だけの写真は、訴えるところが少ないです。横隔膜の下のがらんとした空間を含めて撮影してください。これで手術の全体像を示すことができるのです。
取り去られたもの、かつて存在していたものまで気を回しましょう。
◎助言
あなたが初心者なら構図の知識常識はあまり気にせずに撮ってください。どんどん撮ってください。撮らなければ何も残りません。いろいろ経験してください。そのうちに気がついてきます。納得のうえで撮影することに意味があるのです。教えられて覚えたことは忘れます。
◆整理を
◎画像はフォルダに収納
撮影した画像はコンピュータに移動します。これから先はやりやすいようにどうぞ。
われわれは増設したハードディスクに術中写真のフォルダを作っています。この中は年フォルダそして月フォルダになっています。月フォルダは0205とか0206というふうに年も加えています。好みです。ここに日にちに名前を加えたフォルダを作って、ここに画像を移動します。パスの一例を示すと、D:\My
document\術中写真\2001\0112\31神谷といった具合になります。
日にちに名前を加えたフォルダの名前は、たとえば「12安藤」とか「28伊藤」です。数字はなんとなく半角にしています。問題は一桁です。「04運動」とか「08江藤」のように0を加えます。こうしないと1、11、12、・・・、2、21、22、・・・というふうに並んでしまうのです。
名前は名字だけにしています。フルネームにすると不都合なことが起こるような気がするのです。不便なこともありますが、分かりやすいのも心配なのです。
◎画像を壊されるかもしれません盗まれるかもしれません
対策はいろいろあるでしょう。神谷は2000年のある日メールに紛れた(←おそらく)ウィルスでコンピュータがよれよれになるという経験をしました。これで決断しました。画像を管理するコンピュータをLANからはずしました。インターネットからおさらばしたのです。デジタルデータが使えなくなったら、と思うと不安で不安で。
つながっているとデータを盗まれるかもしれません。これも心配でした。わたしたちの実力では盗まれたことにも気がつかないでしょう。はずしておきます。つながないでください。泥棒が物理的に部屋に忍び込んで盗んだら?ここまでやられたらあきらめます。
◎バックアップはたくさん作る
これもそれぞれの流儀でどうぞ。
われわれはMy documentのなかに「えりぬき術中写真」を作りました。その中に「術中写真」と同じようにフォルダを作り、ここに画像をコピーしています。そしてせっせとえりぬきシリーズを作成しています。
さらにハードディスクを増設して「えりぬき術中写真バックアップ」というフォルダを作り、「術中写真」と同じようにフォルダを作りました。ここにえりぬき画像をコピーしています。くどいですが、適当なところでCDRに焼いています。
実はもう少しバックアップを作っていますが、ここからは機密ということにしておきます。
◆ここに至るまでの事情(蛇足です)
この文章は改訂版です。8年前の銀塩写真版があるのです。インド出張で神谷(厄年)はテレビのない夜に放り込まれました。ビールはまずく、持参した本も読む気になりません。ふと思いついて術中写真入門の作成に手をつけたのでした。資料は持っていませんでした。なくても何とか書けるだろうと考えたのです。使ったワープロはオアシスポケット親指シフト版です。出発前日に買いました。高い買い物でした。自分へのご褒美として内面処理した記憶があります。使ったことのない人にはすすめないと店員さんは好戦的かつ消極的でした。リスクは私がインドで背負いますがね、金を払う私が、と制止を振り切ったのです。忠告は的中し悪戦苦闘しました。指使いのほかにも苦労があったのですが、それは別の機会ということで。
完成はしましたが発表の機会は現れませんでした。内輪で少し読んでもらった程度です。あっさりお蔵入りとなりました。当時はホームページもありませんでしたし。しばらくするとデジタルカメラで術中写真を撮るようになり、作者からも忘れられていました。でも21世紀になり新人の先生たちに術中写真の撮り方をしゃべっていて思い出しました。読み直してみると基本部分は使えます。デジタル用に改訂して読んでもらおうということにしました。