MRIとMEGについて

MRIについて

1.MRIとは一体何ですか?

 MRIとはmagnetite resonance imagingの略語で、日本語で言うと磁気共鳴画像の事です。と言ってもピンとこないと思います。平たく言えば"磁石の力で脳や体の中の写真を撮る"という技術です。X線やCTといった放射線を使った写真と同様に、痛みを伴うことなく体の内部の様子を知る事のできる大変有用な技術です。

 

2.MRIはいつ頃からあるのですか?

 MRIの歴史は1973年米国の科学者であるポール・ラウターバーが磁気共鳴画像を初めて報告しました(Nature1973)。これがMRIの歴史の始まりであるとされます。この業績は2003年にイギリスのピーター・マンスフィールドと共にノーベル生理学賞・医学賞の受賞となりました。

3.原理を簡単に説明してください。

 MRIの原理は決して簡単ではありませんが、できるだけわかりやすく説明してみたいと思います。人間の体を構成している細胞には原子核があります。原子核の中には磁石の成分があります(原子核スピン)。この磁石は色々な方向を向いているので全体としては相殺されてゼロとなります。しかし緩やかな磁場(静磁場)をかけてあげると原子核スピンのある程度向きが揃います。これにある周波数のラジオ波をかけます。原子核スピンはそれに共鳴して静磁場の向きの方向にコマの様な運動(歳差運動)を行います。その周波数(ラーモア周波数)は組織ごとに異なり、かけたラジオ波の大きさに比例します。10-60MHzでラジオ波の周波数と同様となります。ラジオ波をかける事を止めると原子核スピンはコマ回し運動をやめて元の状態に戻りますがこの時間も組織ごとに差があるのです(緩和時間)。これらを検出する事で内部の組織の状態を知る事ができるのです。位置情報には静磁場とは別に距離に比例した勾配磁場という磁場をかけてやる事で獲得する事ができます。

4.どの様な事がわかりますか?

 最も威力を発揮するのが脳の検査です。脳白質、皮質がきれいに分解されて描出され、これは頭部CTでは不可能です。MRA(magnetite resonance arteriography)では1mm程度の脳血管まで撮影する事ができます。水分子の多い所、少ない所を見るなど組織内の生化学的な特徴も検出する事ができます。機能的MRIと呼ばれる方法ではある活動(見たり聞いたり言葉を話したりする事)に対しての脳の中の活動の様子を知る事ができます。DTIトラクトグラフィーという方法では脳白質線維の走行も描出できるようになっています。


(言語の機能的MRI。左前頭葉下前頭回(Broca野)が賦活されている)


(頭部MRA:もやもや病の診断)

5.どの様な病気で有用ですか?

 頭部MRIを用いる事で脳梗塞、脳腫瘍、脳出血、神経変性疾患、炎症性疾患、先天性疾患等様々な診断が可能となります。特に脳梗塞においては超急性期においてのわずかな脳内の変化も捉える事が出来るようになり、早期診断と引き続く急性期治療の発展に貢献しています。また脳腫瘍の分類やその位置情報、周辺の情報を正確に示すことができるようになり脳神経外科手術の術前情報としても大きく貢献しています。


(脳腫瘍の手術においてDTIトラクトグラフィーで言語線維、運動線維など重要な機能を有する経路を示している)

MEGについて

1.MEGとはなんですか?

 MEGとは、Magneto-Encephalo-Graphyの略であり、日本語で"脳磁図記録"と呼ばれる検査方法であり、脳内にわずかに発生する磁場変化をとらえて脳の機能を解析する検査です。

 

2.MEGの原理について簡単に教えてください。

 脳の中の情報の伝達は、神経細胞間での電流のやりとりで行われています。電流が発生すると磁場が発生します。これを記録するのです。この脳磁場は大変な微量で、例えば都市雑音で発生する磁場の一万分の一程度しかありません。しかし、近年の超電導技術とコンピュータ技術の進歩により可能となったのです。

3.脳波検査と比べてメリットは何ですか?

 "脳波検査"では、頭部に電極をのり(ペースト)で装着し、約20分間程度測定するという簡単な方法で脳の中の電気的活動を知る事ができます。しかしこの方法の欠点は、皮膚、頭蓋骨といった導電率の著しく異なる組織の影響の為、脳の中の電流の発生源を正確に同定できない事です。この点磁場は影響を受けないので電流源の推定が可能となります。

4.どの様な病気に有用な検査ですか?

 主にてんかんの診断の為の検査で有用です。てんかんは脳内の神経細胞の中で異常電気活動を起こす部分があるために生じます。この様な場所を高い空間的時間的分解能でとらえる事ができますので、次世代のてんかん診断医療機器として期待されています。その他、脳腫瘍における手術前評価として重要機能領域(例えば言語野)の同定に有用です。その他、様々な疾患でその診断の為に有効に活用する為の研究が進んでいます。また、病気にだけではなく、脳科学研究の分野でも期待されています。例えば、体性感覚(触覚・痛覚など)、運動、視覚、言語といった活動に伴って脳内でどのような変化が生じているのか調べる研究や、高次機能(認知、作業記憶)に関する様々な研究がこの機器を使って進行中です。

5.検査は安全ですか?具体的にどんな準備が必要ですか?

 検査をうけていただくにあたって特に必要な準備はありません。検査をうけられる方は座って、または横になってヘルメットの様なものをかぶり10-30分間程度安静にしていていただきます。磁場を用いた検査になりますのでMRIを行う時と同様の注意が必要です。例えば体内に金属(心臓ペースメーカー、深部脳刺激電極装置)等が入っていると検査が受けられません。また安静が保てない場合も検査が難しくなります。詳しくは主治医の先生とご相談下さい。この様な検査前チェックを十分にクリアしていれば検査自体は痛みを伴う事もなく安全と言えます。