コホートのご紹介

名古屋大学脳とこころの研究センターのご紹介

脳とこころの研究センターについて

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 脳とこころの研究センターは、脳とこころの疾患の病態解明と治療、脳の発達と老化、教育における脳機能の関与など幅広い学際型研究を推進させ、さらに、次世代の研究者及び医療従事者の育成を目指しております。

 脳とこころの研究センターが中核となり、地域連携型研究コンソーシアムによる大規模な脳とこころの発達・疾患・加齢コホートを確立し、この基盤の下に、名古屋大学医学系研究科神経内科学、脳神経外科学、精神医学・親と子どもの心療学、量子医学、地域在宅医療学・老年科学、小児科学・成長発達医学、分子生物学などの各講座、医学部保健学科、教育発達科学研究科、環境学研究科、創薬科学研究科、環境医学研究所のほか、国立長寿医療研究センター、愛知県心身障害者コロニー、自然科学研究機構生理学研究所、愛知医科大学、さらには企業との連携の下に、ダイナミックな地域連携型研究コンソーシアムを構築し、脳とこころの疾患の克服を目指します。

 センターの中心的な研究テーマである画像研究は、大幸地区(上の写真、ナゴヤドームのすぐ近くです)と鶴舞地区(名大病院)で実施しています。

脳とこころの研究センターと名大病院で行う最新画像

 脳とこころの研究センターでは、通常の診療では実施出来ない最先端の画像解析を行っています。上はその代表的な画像です。ヒトの大脳には表面的に140億、中側には1300億の細胞があるとされています。銀河系の星の数が3000億ですから、その半分の細胞を私達は持っています。星と脳細胞の違いとして、脳細胞はお互いが軸索やシナプスという解剖学的構造物を介してつながっており、さらにシナプスでは神経情報伝達物質を出すことで、大きなネットワークを作っている点が挙げられます。
 最新の画像技術を使っても細胞は見ることは出来ないのですが、上の図のように神経細胞と神経細胞をつなぐ大きな神経線維(拡散テンソル画像)、ネットワークの様子(安静時脳機能MRI、MEG)、脳細胞が減った結果生ずる脳萎縮(脳容積画像)を見出すことが可能です。さらに、放射線医学総合研究所と共同研究で、脳に溜まってくる病的タンパク質を見えるように(PETによるタウンイメージング)、鶴舞地区で研究を推進しています。

拡散テンソル画像;神経細胞同士をつないでいる太い繊維の連絡を可視化して評価することが出来ます

 拡散テンソル画像では、大づかみでありますが、神経線維の走行の様子を可視化することが出来ます。拡散の意味するものは何でしょうか?ヒトの頭の中では多数の水分子が動いています。これは全く自由に動いているわけではなく、神経線維の中をある程度繊維の方向に沿って動いています。この水のミクロの動き(拡散現象)を可視化(MRIで見えるように)したものを拡散MRIと呼びます。拡散MRIは、脳梗塞の超急性期診断をはじめ、様々な診療の場面で役に立っています。

 ではテンソルはどうでしょうか?拡散よりも耳慣れない言葉と思いますが、三次元空間を走行している神経線維を抽出するために用いる数学的基盤になります。ベクトルの親戚、親玉と御理解下さい。拡散テンソル画像では、神経線維に沿った水の動きを可視化しています。

 脳とこころの研究センターでは、一般の施設よりも細かく神経線維を抽出する撮影方法を用いて、より正確な神経線維走行の評価が出来るようにしています。

 病気になると、この繊維の抽出が乏しくなります。様々な神経変性疾患の診断や病態把握に役立つことが期待されています。

安静時機能的MRI;ボーッとしている時に活発に働いている脳内ネットワークを可視化しています

 機能的MRI(fMRI)とは、脳内の血流の変化を鋭敏に捉えることで脳活動を把握する方法です。私達が物を見たり、話したりすると、神経活動の局所的な亢進に伴って同部位の血流量が増加します。この増加を捉えることで、神経活動の場所を想定する方法です。

 少し前までは、脳は活動している時に合目的な部位の血流が増加すると考えられていましたが(物を見ている時には後頭葉の視覚野の血流が増加するなど)、最近の研究により、脳には何も考えていない時であっても、活発に血流が増加している部位のあることが分かってきました。ボーッとしている時に脳血流の変化を評価する撮影方法を安静時機能的MRI(rsfMRI)と呼びます。

 上の図は、安静時に血流が増加している領域を示しています。安静時脳活動の程度は、意識的脳活動の20倍にも達するとされています。この領域はデフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network;DMN)と名付けられ、黄色~オレンジ色の領域が、一つのネットワークとして同期しながら活動しています。アルツハイマー型認知症では早期からこのネットワークの異常の生ずることが判明しており、早期診断法の1つとして注目されています。

脳容積画像;通常のMRIでは分かりづらい萎縮を鋭敏に捉えることが可能で、早期診断につながります

 脳容積画像は、脳萎縮を鋭敏に捉えるために、また客観的に萎縮していることを捉えるために用いられる解析方法です。

 上の図の向かって左は、アルツハイマー病の患者さんで萎縮を認めた部位がオレンジ色になっています。この図は丁度、脳の真ん中の部位の断面図で左側が頭の後ろ、右側が頭の前を示しています。ご覧いただいて分かるように、頭のてっぺん(頭頂葉)から後方(後頭頭頂葉)にかけて萎縮が広がっていることが分かります。

 上の図の向かって右は前頭側頭型認知症の患者さんで萎縮を認めた部位がオレンジ色になっています。アルツハイマー病と対照的に頭の前の方(前頭葉)に萎縮が広がっています。

 このように脳容積画像は、通常のMRIでは評価しづらい脳の軽微な萎縮を鋭敏にとらえ、認知症の早期診断、色々な種類のある認知症の鑑別診断に役立つことが知られています。

健常者1000名コホート研究参加へのお願い

 健常の方でも、上のMRIのように、脳は萎縮しています。では、物忘れが明らかになる方とならない方で何が違うのでしょうか?どうしたら物忘れを予防出来るのでしょうか?
 脳とこころの研究センターでは、高齢者の方々の脳画像研究を通じて、認知症の予防、早期発見、早期治療、新規治療法開発を目指します。

研究の内容
  • 加齢に伴う脳の構造、機能、神経回路の変化を明らかにします。
  • こうした変化に影響を及ぼす環境要因や遺伝子因子を明らかにします。
  • 加齢と疾病の境界を明らかにします。
  • 脳を健康に保つ方法や、創薬の開発につなげていきます。
  • 画期的早期診断方法の開発を目指します。
  • 認知症の予防方法の開発につなげていきます。

ご参加いただく研究の背景

 近年、人の脳やこころの働きの理解は、MRIやPETの発達と、そのデータ解析技術の進歩による脳の可視化を通じて飛躍的な進展を遂げています。こうした研究は、人の脳神経線維の走行、神経線維の連絡、脳萎縮、加齢とともに脳内に留まる病的なタンパク質などを可視化することも可能にしています。

 しかしながら、まだまだ加齢に伴って脳の中で起こっている構造、機能、神経回路の変化や、個々人における違い、そしてその違いに影響を与えている環境因子や遺伝子因子は分かっていません。また加齢と認知症などの病気との境界も明らかではありません。こうした疑問を解決することは、年を重ねても脳を健やかに保ち、認知症への進展を予防し、新規治療法の開発につながることが期待されます。

 そこで名古屋大学脳とこころの研究センターでは、幅広い共同研究者の協力の下に、MRIと脳磁図を用いた脳神経回路網の発達・加齢コホートを構築し、その解析および、多様性に影響する遺伝子因子の探索を行うことで、脳とこころの加齢や疾患の病態解明、治療法開発に役立つ指標の確立を目指す研究を推進しています。

早期診断から新規治療法と予防法の開発へ

 アルツハイマー型認知症では、物忘れなど臨床的な異常を認める30年ほど前から様々なアミロイドβ蛋白の蓄積、シナプスの機能異常、タウ関連神経障害をはじめ、様々な病理学的変化が頭の中では起こっていることが最近の研究で分かってきています。

 現在行われている治療は、同疾患のために頭の中で不足してしまったアセチルコリンを補充することが主体であり、病気の進行を食い止めることは出来ません。

 病気の進行を止める治療としてアミロイドに対するワクチン療法や免疫療法が期待されましたが、残念ながら動物実験で見られるような結果が得られていません。その理由の1つとして、治療開始時期が遅すぎることが言われています。このため、アメリカをはじめ、より早期に治療を開始して進行を予防する治験が開始されています。また、発症前から運動、食事、生活習慣の予防などを積極的に行うことで、認知症の発症を遅らせることが出来ることも期待されています。

 認知症の進行を遅らせるような治療法の開発や、予防法の開発に、早期診断は重要な役割を果たすことが期待されています。

ご参加いただく研究について

健常者ボランティアを募集しています