名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科
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疾患の説明

疾患の説明
神経膠腫  ■胚細胞腫  ■髄芽腫  ■上衣腫  ■頭蓋咽頭腫  ■脈絡叢乳頭腫

神経膠腫

1. 概説
小児の神経膠腫
神経膠腫とは、脳からできる腫瘍の中で最も多く、神経を栄養・保護する神経膠細胞から発生します。日本の統計では、小児脳腫瘍の中でも神経膠腫は最も多い腫瘍ですが、その発生部位、悪性度、種類などには小児と成人で異なる点があります。例えば小児では、脳幹、視床、視床下部、視神経、小脳などに神経膠腫が発生しやすく、脳幹部の神経膠腫では、8割程が悪性度の高い腫瘍なのに対し、その他の部位では悪性度の低い毛様性星細胞腫という神経膠腫が多く見られます。小児では、生まれつきの遺伝子異常に伴う神経膠腫の発生が成人より多く、NF1やTP53という遺伝子の異常が知られていますが、大半の症例は明らかな原因なく発生します。
神経膠腫の症状は腫瘍の発生する場所により異なります。小脳の症状として運動失調と呼ばれるふらつきや歩行障害、視床下部の症状としてホルモン異常に伴う成長障害や尿量が増える尿崩症、視神経の症状として視力・視野障害、脳幹症状として眼球運動障害や嚥下障害などがあり、これらは巣症状と呼ばれます。一方、元気がない、機嫌が悪いといった神経膠腫のみに特徴的ではない症状や、頭痛、嘔吐、意識障害など、頭の中の圧力が上昇した症状で見つかることもあります。脳脊髄液の通路が腫瘍により閉塞した場合は、頭痛、嘔吐、意識障害などが急速に進行し、水頭症という状態になります。腫瘍によりけいれん発作や水頭症が出現した場合は、緊急の処置が必要となります。
検査は主にCTとMRIが行われ、腫瘍の位置、水頭症の有無などが分かります。造影剤を使用すると、腫瘍の広がりや悪性度を予想できますが、診断の確定には手術で腫瘍を摘出して顕微鏡による観察が必要です。

2. 治療法
小児の脳腫瘍治療を困難にしている点は、小児の脳が発育途上なため、特に3歳以下の乳幼児には放射線治療を行いにくいところにあります。小児の脳の発達に障害が起こると、知的障害や体の発達障害などのため、社会生活が困難となります。一方で、小児では強い化学療法に比較的耐えられるというメリットもあり、有効な化学療法の開発が期待されています。悪性度の高い脳腫瘍には、手術、放射線治療、化学療法の3つを組み合わせた治療が必要となります。

3. 各腫瘍の特徴と治療法
毛様性星細胞腫(WHOグレード1)
小児の小脳、視床下部、視神経に発生しやすい神経膠腫の1つで、発生部位により症状は異なります。毛様性星細胞腫は神経膠腫の中では悪性度が一番低い腫瘍であり、手術摘出のみで長期間の生存が可能ですが、10年、20年という期間を経て再発することがあります。脳幹や視神経の腫瘍など手術摘出不能な場合は、放射線治療や化学療法を行うことがあります。

びまん性星細胞腫、乏突起膠腫(WHOグレード2)
周りに広がりやすい腫瘍であり、あらゆる部位の脳に発生し、比較的ゆっくり大きくなります。大脳の表面近くに腫瘍が存在する場合はけいれん発作を起こすことがあります。毛様性星細胞腫より短期間で悪性度の高い腫瘍に変化(悪性転化)します。手術で全摘出できた場合は経過をみることもありますが、放射線治療(脳局所照射50-54 Gy/25-30回)を併用することで生存期間が延長することが示されています。

退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫(WHOグレード3)
腫瘍が比較的速く大きくなるので、正常な脳との境目が分かりにくく、手術をしても再発しやすいので、治療困難な腫瘍です。さらに悪性度の高い膠芽腫へ短期間で変化します。治療は、手術で可能な限り摘出し、術後に放射線治療と化学療法を組み合わせます。化学療法には膠芽腫に準じてテモゾロミドという経口薬の抗癌剤が使われます。同じWHOグレード3の腫瘍でも、乏突起膠腫系の腫瘍は放射線治療や化学療法が効きやすく、生存期間も長いという特徴があります。

膠芽腫(WHOグレード4) 最も悪性で、治癒困難の脳腫瘍であり、患者さんの平均生存期間は1年くらいとされています。治療が効きにくく、再発しやすく、時には脳脊髄液の流れにのって脳の表面や脊髄にまで腫瘍が広がります。成人と同様に、手術摘出、放射線治療(脳局所照射60 Gy/30回)、化学療法(テモゾロミド内服)による複合的治療が行われます。小児に対するテモゾロミドの効果と安全性はまだ完全に証明されていません。


胚細胞腫

1. 概説
母体のお腹の中の赤ちゃんの体を構成する成分や受精及び着床に関連する組織からできる腫瘍であり、小児期に多い脳腫瘍です。頭蓋内では松果体部とその近くに好発し、次いで鞍上部、大脳基底核の順に発生しやすい腫瘍です。松果体部に発生する場合は男子が非常に多いですが、トルコ鞍の上部(鞍上部)にできる場合には男女ほぼ同数です。症状として、松果体部の腫瘍の場合には目が上を向かなくなる症状、鞍上部の腫瘍では視床下部・下垂体機能の異常(尿量の異常な増加や成長障害)と視力や視野の障害が特徴的です。また、血液検査ではAFP, CEA, βHCGなどの腫瘍マーカーが診断に役立ちます。胚細胞腫はその構成成分から胚腫(ジャーミノーマ)、奇形腫、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、胎児性癌の5種類に分類されます。

胚腫
男児の松果体部、女児の鞍上部にできる悪性腫瘍です。本腫瘍は、手術での摘出の程度と術後経過の病状経過の関連がないため、胚腫と診断された場合、化学療法及び放射線療法で治療します。これらの治療により完治が期待できます。純粋な胚腫では血液中の上記腫瘍マーカーはいずれも陰性ですが、胚腫の一部では血液検査でβHCGが軽度上昇します。

奇形腫
様々な組織からできる腫瘍で良性の成熟奇形腫の他に、より悪性の未熟奇形腫などがあります。手術による摘出が治療の基本ですが、悪性なタイプや他の胚細胞性腫瘍との混合がみられることがあり、その場合放射線治療や化学療法が行われます。

卵黄嚢腫瘍、絨毛癌、胎児性癌
きわめて悪性度の高い腫瘍です。腫瘍マーカーは、卵黄嚢腫瘍ではAFPが、絨毛癌ではβHCGが異常高値となります。手術および放射線・化学療法を行いますが、経過はよくないとされています。

2.治療法
松果体部、鞍上部、大脳基底核部の腫瘍で画像所見ならびに腫瘍マーカーを含む検査所見から胚細胞系腫瘍が強く疑われる場合には、診断を兼ねて最初に化学療法を行います。それにより手術の危険性を減らすことができます。症状や検査・画像所見から診断が難しい症例においては、手術によって摘出された腫瘍を顕微鏡で診断した後に、化学・放射線療法を行います。なかでも胚腫は放射線治療の効果が極めて高く、放射線治療により10年生存率が80%以上とされています。この腫瘍は、脳や脊髄の表面に腫瘍細胞が散らばる播種と呼ばれる状態を起こしやすい腫瘍のため、放射線治療は脳と脊髄全体に照射されてきましたが、放射線の影響で何年も経ってから発育障害が現れ、日常生活を送る上で大きな問題となっていました。近年では、放射線の量を減らしたり照射範囲を狭くし、化学療法と組み合わせることで播種を防ぐようになってきています。最近では、シスプラチンとエトポシドという抗癌剤を用いた化学療法に放射線治療を加える治療法が主体となっています。


髄芽腫

1. 概説
髄芽腫は小児に発生する代表的な腫瘍の一つで、小脳に発生する悪性腫瘍です。脳脊髄液が貯まる水頭症や腫瘍の影響により頭痛や嘔吐などで発症します。腫瘍が脳や脊髄の表面に散らばる播種という状態を起こしやすい腫瘍です。放射線治療や化学療法に対する効果は高いと考えられていますが、病気の経過は腫瘍の摘出度(体積1.5 ml以上の腫瘍の残存は経過が悪い)、発症年齢(3歳未満は経過が悪い)、播種があるかどうかに関係があるとされています。手術により腫瘍を出来るだけ摘出した上で、放射線治療(全脳全脊髄照射)、化学療法(通常の化学療法の他に、末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法を行う場合があります)を行うことで、完全に治すことのできる症例が増加しています。
CNS PNET (Central Nervous System Supratentorial Primitive Neuroectodermal Tumor:テント上原始神経外胚葉性腫瘍)は、顕微鏡で見た腫瘍細胞の姿が髄芽腫と類似していますが、小脳以外の大脳・脳幹・脊髄にできるものをいいます。髄芽腫と比べて治療効果の低いことが多く、経過が悪い腫瘍です。
AT/RT (Atypical Teratoid/Rhabdoid Tumor:非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍)は後頭蓋窩(小脳と脳幹)に多く発生する乳幼児にみられる稀な腫瘍です。治療が効きにくく極めて経過の悪い腫瘍です。CNS PNETやAT/RTについては、髄芽腫に準じて強力な化学療法・放射線治療が行われます。

2.治療法
手術治療に対する考え方
髄芽腫は悪性の腫瘍ですが、その経過は手術による摘出率で大きく変わります。即ち、手術後の残存腫瘍のサイズが1.5cm3以下に抑えられた場合、その後の放射線化学療法によってよい経過が期待できると報告されています。そのため、髄芽腫には積極的な手術により全摘出を目指すべきです。しかし、腫瘍は多くの場合、脳幹という非常に大事で切除できない部位に接して存在しており、手術後に合併症を出さないよう各種の検査機器を使って手術を行いますが、腫瘍を残さざるを得ない場合があります。また、播種のある場合は全摘出が不可能です。逆に、手術によって腫瘍が他の部位に移ってしまうことがあり、手術に際しては慎重な手技が要求されます。

放射線治療に対する考え方
髄芽腫の治療において、放射線治療は重要な役割を担っており、髄芽腫が治癒するか否かは放射線治療にかかっているとも言えます。髄芽腫は放射線治療が発達する以前には不治の病と考えられていましたが、手術の後、適切な放射線治療を行うことにより60%を越える5年生存率が得られるようになってきました。しかし一方で、小児、特に幼児に対して、放射線療法は重大な副作用を引き起こす可能性があることが判明しています。髄芽腫に対しては全脳脊髄照射が必要ですが、これによって知能低下、ホルモンの異常、脳血管障害、脊椎骨の発育障害などが起こりえます。このような副作用の起こる確率を低くするには、放射線の強さを下げる以外に方法はないと考えられていますが、ただ単に強さを下げると再発の可能性が高くなるため、従来よりも強力な化学療法を併用することによって、可能な限り放射線の強さを下げる試みがなされています。

(化学療法に対する考え方)
これまでの研究により、アルキル化剤や白金製剤などを用いた化学療法は髄芽腫の治療に効果があることが示されています。これらの薬剤を用いた化学療法を加えることにより、放射線治療の強さを減らせることが期待されています。一方、治療強化に伴う副作用の増強と重症合併症の出現という問題があります。また、治療強化に伴う貧血や免疫力低下を克服する目的で、自分の血液中に含まれる幹細胞の移植を行いながら複数回の大量化学療法を実施することで、化学療法の効果を最大限に引き出すことが試みられています。


上衣腫

1. 概説
正常な上衣細胞は、脳の内部にある脳脊髄液の貯まる部屋(脳室)の壁を構成しています。この上衣細胞の特徴を有した腫瘍が上衣腫です。成人にも発生しますが小児により多いとされています。
好発部位;小児では小脳と脳幹の間に存在する第4脳室と呼ばれる場所に多く発生します。脳の内部から脳・脊髄の表面へと流れる脳脊髄液は脳室の中を流れるため、上衣腫により髄液がせき止められ脳内にたまってしまうこと(水頭症)も少なくありません。
分類;細胞の増殖の早さや悪性度により、通常の上衣腫(WHOグレード2)と、より悪性度の高い退形成性上衣腫(WHOグレード3)に分類されます。通常の上衣腫は、腫瘍が大きくなる速度は比較的遅いと言われています。

2.治療法
腫瘍を手術で全て取りきる(全摘出する)ことが最も重要です。悪性度が低く全て取りきれる上衣腫であれば完全に治ることが期待できます。ただし、第4脳室は生命の維持など重要な機能のある部位(脳幹)に接しており、そうした部位の損傷を避けるために、腫瘍を全摘出できない場合があります。他の離れた部位に腫瘍が飛び散っている場合(播種)なども全摘出は難しくなります。抗癌剤を使用する化学療法は、上衣腫に対する効果が低いため、全摘出が難しい場合には患者さんの年齢等を考慮して放射線による治療を追加します。また、腫瘍が全て取れた場合でも、腫瘍のあった部位に放射線による治療を追加して再発予防を行うことが多くなっています。再発は、もともと腫瘍のあった部位に生じることが多いとされます。


頭蓋咽頭腫

1. 概説
頭蓋咽頭管は母親の体内で体が作られる段階で一時的に存在する組織で、赤ちゃんとして生まれてくる時には消失しています。この頭蓋咽頭管が生後も頭の中に残ってしまい、そこから発生した腫瘍が頭蓋咽頭腫です。
好発年齢:子供にも大人にも生じる腫瘍です。
好発部位と症状:トルコ鞍の周囲で下垂体や視床下部に接して発生します。そのため、大きくなると下垂体・視床下部・視神経などを圧迫し、視力が下がったり、視野が狭くなったり、内分泌異常(下記参照)などを生じます。また、脳の内部や周囲を流れている脳脊髄液をせき止めてしまい、脳の中に液体が溜まってしまう状態(水頭症)となることもあります。
悪性度:良性の腫瘍で、脳の他の部位へは広がりにくいですが、再発することが比較的多いという特徴もあります。

2.治療法
治療の第一は手術で腫瘍の全部を摘出(全摘出)することとなります。全摘出できれば完全に治ることが期待されます。ただし、頭蓋咽頭腫が生ずる部位は脳の中心深くにあり、かつ非常に大事な神経や脳組織が集まっている場所であるため、完全な切除を出来ない場合があります。手術をしない場合や腫瘍が残ってしまっている場合にはガンマナイフなどといった放射線治療を行うことがあります。
内分泌異常による症状:下垂体などの障害によりホルモンの分泌が障害され、尿量の異常な増加や成長障害、体力の低下、肥満、性機能の異常などが生じます。


脈絡叢乳頭腫

1. 概説
脈絡叢乳頭腫とは脈絡叢という脳脊髄液を産生する組織からできる腫瘍です。小児の脳腫瘍の2-4%を占め、小児では特に側脳室という脳室の中に発生することが多いとされています。脳室の中に腫瘍の塊を作ることが多いため、脳脊髄液の流れが阻害されやすく、また脳脊髄液の産生が多くなることから、脳脊髄液が脳室にたまる水頭症を来しやすい腫瘍です。脈絡叢乳頭腫(WHOグレード1)は良性腫瘍ですが、より悪性度の高い異型性脈絡叢乳頭腫(WHOグレード2)と脈絡叢乳頭癌(WHOグレード3)は再発しやすく治療も困難です。水頭症からくる頭囲の拡大、頭痛、ふらつきなどの症状で発見されることが多く、CTやMRIで腫瘍は見つかりますが、似た画像所見を示すその他の脳腫瘍との診断をつけるため、手術による診断の確定が必要です。TP53やINI1という遺伝子の異常との関連が脈絡叢乳頭腫と脈絡叢乳頭癌でそれぞれ言われていますが、はっきりとした原因は不明です。

2.治療法
脈絡叢乳頭腫は手術で腫瘍が全て摘出(全摘出)されれば治癒可能ですが、腫瘍が残ると腫瘍細胞が別の場所へ流れていき、転移・再発することがあります。全摘出された脈絡叢乳頭腫の患者さんの5年後の生存率は100%近くですが、腫瘍が残ってしまうと生存率は約70%に下がります。また脈絡叢乳頭癌は、手術のみで治すのは困難で、手術後に放射線治療や化学療法を行うことがあります。しかし、この腫瘍の放射線治療の効果は低く化学療法も確立していないため、治療の成績は悪く、脈絡叢乳頭癌患者の5年後の生存率は約40%という報告があります。

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