名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科
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小児腫瘍とは

小児脳腫瘍とは
脳腫瘍ができる頻度は、日本脳腫瘍全国集計によれば人口10万人に対して12.8人です。そのうち15歳未満の小児にできるのは7.8%といわれています。成人よりも小児期にできやすい腫瘍は多い順に、星細胞腫(せいさいぼうしゅ)、髄芽腫(ずいがしゅ)、胚細胞性腫瘍(はいさいぼうせいしゅよう)、頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)、退形成性星細胞腫(たいけいせいせいせいさいぼうしゅ)、上衣腫(じょういしゅ)などとなっています。
脳腫瘍の病状の経過は、脳腫瘍の種類や発症する年齢、手術が可能かどうかなど様々な要因により左右されるため一概に論ずることはできません。また小児脳腫瘍は比較的少ないために正確なデータがないのが現状です。良性のもので完治が期待できるものから、悪性のものまであります。


症状・症候

脳腫瘍の症状として代表的なものに頭痛があります。特に朝方に起こる頭痛が特徴的であり、吐き気を伴うことが多くみられます。これは腫瘍が大きくなったり、脳脊髄液の流れが悪くなって脳の中の圧力が高くなったりすることが原因です。
脳脊髄液の流れが悪くなって脳の中の圧力が高くなることを「水頭症」といいますが、頭蓋骨の完成度が異なる年齢で症状が異なります。いくつかの平たい板のような骨がつながってできる頭蓋骨のつなぎ目の閉鎖が未完成な2歳頃までは、脳の圧力が上がると頭蓋骨のつなぎ目が離れるので、この時期水頭症では症状の進行とともに頭囲が大きくなります。頭蓋骨のつなぎ目が閉鎖したあとで発症する水頭症の症状は、高まった脳の圧力の逃げ場がなくなって、頭痛、吐き気が出てきます。四肢の動きが悪くなったり、動作が鈍くなったりすることで気付かれることも多くみられます。また、大脳の腫瘍では、けいれん発作(症候性てんかん)が起こることがしばしばあります。脳腫瘍の症状には、腫瘍のできた場所により出る巣症状(そうしょうじょう)とよばれるものがあります。巣症状は、例えば、片麻痺(かたまひ:左右どちらか片側の手足の動きが悪くなる)、顔面の麻痺(片方の顔の動きが悪くなる)、感覚障害(しびれや、感覚の低下など)、視野障害(見える範囲が狭くなったり、部分的に見えなくなったりする)や視力障害(眼鏡で矯正できない視力の低下)、複視(ふくし:ものが二重に見える)、聴力の障害(聴力の低下や耳鳴り)、嚥下障害(えんげしょうがい:飲み込みがうまくできなくなる)、尿崩症(にょうほうしょう:薄い尿が多量に出る)、低身長など身体発育の異常、性早熟など、様々なものがあります。これらの症状を詳しく評価することで脳腫瘍の場所や拡がりを推定する手がかりとなります。

脳腫瘍発生場所と巣症状(神経症状)
脳腫瘍発生場所と巣症状(神経症状)


診断

脳腫瘍の診断には、症状の問診、神経症状等の評価を行いますが、様々な画像診断が必要です。近年の画像診断技術の進展は目覚しいですが、ひとつの診断技術のみで診断することは不確実であるため、複数の画像診断を組み合わせて評価することが重要です。しかし、最終的には手術のときに取り除いた腫瘍の顕微鏡検査により確実に診断することがとても重要です。

・頭部単純X線写真
通常は骨がない場所に、骨のように固い部分(石灰化:せっかいか)があるかどうかを評価したり、トルコ鞍の状態をみることで、下垂体腫瘍(かすいたいしゅよう)や頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)などトルコ鞍(あん)周辺腫瘍の診断に有用です。

・頭部CT
脳腫瘍の大まかな評価、出血や石灰化の有無、水頭症の評価、術後の状態など、脳腫瘍患者の診断から治療の経過の中で行っていく基本的な画像診断です。

・頭部MRI
頭部CTより分解能が高く、診断能力に優れます。造影剤を注射して行う造影検査は腫瘍の評価のためには重要です。

・核医学検査
腫瘍および非腫瘍性病変を見分けたり、腫瘍の悪性度を推定するために行われます。


検査値

胚細胞性腫瘍(はいさいぼうせいしゅよう)では、血液検査でAFP、βHCG、CEAなどの腫瘍マーカーが上昇するものがあり、上昇するマーカーの種類と程度により、胚細胞性腫瘍の中のどのタイプのものかを推定したり、治療効果や病状の判定に役立てたりすることができます。ただし、その他の脳腫瘍では、有効な腫瘍マーカーがないために血液検査での診断は行うことができません。
脳腫瘍細胞は髄液の流れにのって脊髄を含めた中枢神経系内へと拡がることがあり、これを播種(はしゅ)と呼びます。髄芽腫、胚細胞性腫瘍などでは特に頻度が高いため髄液検査(腰椎穿刺:ようついせんし など)を行って、髄液の一般検査を行ったり細胞診を行ったりします。


治療法

頭痛においては通常の鎮痛剤が投与されます。また、脳の圧力を低くしたり、腫瘍による脳の圧迫による脳の腫れを少なくしたりするために、浸透圧利尿剤(グリセオール、マンニトール)、ステロイド剤が投与されます。しかし、これらは脳浮腫を軽くしたり脳の圧力を下げる治療法であり、腫瘍そのものを治す治療法ではありません。したがって、脳腫瘍の治療の基本は、手術で原因となる腫瘍を取り除き、病理診断を確実に行ったうえで、病理診断に基づいて、必要があれば放射線療法や抗がん剤療法を追加することです。

・手術療法
脳腫瘍は一般的に可能な限り多くの腫瘍を摘出することが、予後の改善につながります。良性腫瘍(WHO grade 1)では手術による摘出により治癒が得られることがあります。ただし、腫瘍によっては、胚細胞性腫瘍や悪性リンパ腫など、手術でより多く摘出することが特に良好な治療経過につながらないような種類のものがあるので、こうした腫瘍においては、手術では少しの摘出にとどめ、顕微鏡検査で確定診断をしたあと、放射線療法、抗がん剤療法が治療の主体となります。また、手術で多く摘出することは、すなわち周辺の正常脳や脳神経に損害を与え、後遺症が出ることがあるので、腫瘍摘出術の際はその必要性と危険性を十分に検討する必要があります。

・放射線療法
星細胞腫や上衣腫などの神経膠腫(しんけいこうしゅ)と呼ばれる腫瘍では比較的良性タイプのものでも(WHO grade 2)、手術で取りきれない場合で腫瘍が再び大きくなることが予測される場合には放射線療法を行うことがあります。またWHO grade 3以上の腫瘍では一般に放射線療法が適応になります。放射線の照射方法や照射する範囲については、腫瘍の種類や広がり具合で決定します。小児の放射線治療では、特に3歳未満症例の場合の脳照射で知的な発達の障害が高率に起こるため、3歳を超えるまでは出来る限り化学療法などのその他の治療を行います。また、下垂体・視床下部の障害や全脊髄照射での低身長の問題などの放射線による障害についても重要です。

・化学療法
化学療法は放射線の次に有効な治療方法です。化学療法単独で確実に治癒まで持ち込める腫瘍はありませんが、放射線照射による不利益を出来る限り少なくするために、化学療法を行うことによって放射線照射の時期を遅らせたり、放射線照射の量を減らせると考えられています。また、腫瘍の種類により化学療法剤の選択は異なります。
すべての脳腫瘍で手術・放射線・化学療法などの体に負担の大きい治療を即座に行う必要はありません。症状がなく、進行のない場合では、経過観察をすることも重要です。一方で、小児脳腫瘍は緊急性のある疾患であり、すぐに適切な治療を行わないと生命に関わることがあるため、迅速に正確な判断を行うことが必要です。

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