名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科
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内視鏡・低侵襲グループ


1.グループ紹介

1)名古屋大学脳神経外科のメンバー
竹内 和人 Kazuhito TAKEUCHI (平成16年卒: 特任助教)
永田 雄一 Yuichi NAGATA (平成20年卒: 大学院生)
秋 禎樹 Chu JONSU (平成21年卒: 大学院生)

2)脳内視鏡センター(名古屋第二赤十字病院)
永谷 哲也 Tetsuya NAGATANI (昭和63年卒)
渡邉 督 Tadashi WATANABE (平成8年卒)

■グループの理念
現在、内視鏡技術の進歩により侵襲性の大きな手術から、より低侵襲な手術が盛んに行われるようになってきている。このような背景の中で内視鏡を用いた脳神経外科手術法を確立し、またそれに伴う手術機器の開発を行う。安全性を担保しながらより低侵襲かつ、確実な手術を目指す。

【対象疾患】
トルコ鞍近傍病変:下垂体腺種、斜台脊索腫、ラトケ嚢胞、頭蓋咽頭腫、鞍結節髄膜腫等
脳室内病変:脳室内腫瘍、脳室内出血、中脳水道狭窄症、松果体部腫瘍等
脳実質内病変:脳腫瘍及び腫瘍性病変、脳内出血、変性病変、感染・炎症性病変

■グループの研究活動
臨床面
手術機器の開発、対象疾患の拡大、機能評価基準の作成
教育面
手術シミュレーション技術、トレーニングシステム、技術プログラム等の充実


2.神経内視鏡手術とは

脳神経外科における内視鏡手術は1910年頃にさかのぼるといわれています。当時は先天性の水頭症に対して治療の試みがされましたが十分な治療効果は得られませんでした。現在、脳神経外科手術は顕微鏡下手術、いわゆるマイクロサージェリーの技術が広く用いられていますが1980年代より内視鏡技術が進歩し脳神経外科領域への内視鏡の導入が進んできました。特に脳神経外科領域で内視鏡を用いて行う手術のことを神経内視鏡手術と呼んでいます。内視鏡は顕微鏡と違い手術野の中に入り込んで対象物を見るので外から術野を観察する顕微鏡にはない利点があります。以下に内視鏡の利点を列挙します。(図1)
1) 脳の中に入って対象物を観察するので顕微鏡より広い範囲を観察でき顕微鏡の死角を補うことができる。
2) 対象物を間近に捕らえるので間口を小さくすることができる。つまり、開頭範囲などを従来の大きさより縮小できる。すなわち手術侵襲を小さくできる。
3) 内視鏡には硬性鏡と軟性鏡、硬性鏡には視野方向が0度から70度までのものがあり目的に応じ使い分けることによって効果的な術野の観察が可能である。
これらの利点に対し欠点もあります。以下に、内視鏡の欠点、課題点を列挙します。
1) テレビモニター下の手術操作なので顕微鏡手術のような立体感がないため手術操作をマスターするにはトレーニングが必要である。
2) 顕微鏡に比べ広い範囲を観察することができるが実際の手術操作を行なおうとすると道具が届かないことがある。
3) 内視鏡を術野の中で固定するので内視鏡そのものが手術操作の妨げになる。
等施設では1997年に神経内視鏡を導入し内視鏡の利点を生かし、欠点を補うため術式の工夫や手術機器の改良、工夫を行ってきました。また、現在は神経内 視鏡手術の適応範囲をさらに広げるための試みもおこなっています。また、現在神経内視鏡手術に用いる内視鏡には硬性鏡と軟性鏡の2種類があり使用用途に応じ使い分けていますがいずれも年々、内視鏡技術、画像技術の進歩により性能が向上しています。たとえば、軟性鏡の場合以前はいわゆるファイバースコープと いうグラスファイバーを通してCCDカメラに画像信号を入れる方式でしたが最近は内視鏡の先端に小型化したCCDカメラを装着した方式の軟性鏡が市販されたため画質が飛躍的に向上しました。また、硬性鏡も高性能な保持装置やハイビジョンカメラなどの導入で機能的にも画質的にも以前に比べ改良されています。 ちなみに神経内視鏡手術に用いる内視鏡の径で最小のものは2mm前後です。最も頻回に用いるものは4mmです。
 
図1
図1
 

■対象疾患と術式
現在、私達のグループで担当している疾患は以下の通りです。
(1) トルコ鞍近傍病変
下垂体腺腫
ラトケ嚢胞
頭蓋咽頭腫
斜台部脊索腫
鞍結節髄膜腫
(2) 水頭症及び水頭症関連疾患
正常圧水頭症
閉塞性水頭症(中脳水道狭窄症など)
松果体部腫瘍
くも膜のう胞
(3) 脳血管障害
脳出血
脳室内出血
(4) 脳腫瘍
脳室内腫瘍
脳実質腫瘍

これらの疾患について説明致します。(図2) (動画をご視聴いただけます)

(1)トルコ鞍近傍腫瘍
トルコ鞍という頭の中心にある部分にできた腫瘍のことを言います。下垂体腫瘍が最も多く、その他にラトケ嚢胞、頭蓋咽頭腫、鞍結節髄膜腫などの腫瘍があります。これらの腫瘍の多くは良性腫瘍ですが、周囲に視神経などの大事な構造物があるため、大きくなると視野障害の原因となり、周囲の組織を刺激することによる頭痛が起こることがあります。またこの部位は、体の機能を維持するホルモンを分泌する下垂体という組織があり、腫瘍によってはこのホルモンを過剰に産生することがあります。

@下垂体腫瘍
下垂体腺腫は脳下垂体の中の前葉組織から発生し、脳腫瘍全体の10から20%を占める腫瘍です。年令は20から30代に多いといわれますが高齢者にも多く見られます。また、男女での頻度の差はないといわれています。腫瘍の性質としてほとんどすべて良性腫瘍で発育は比較的ゆっくりであると言われています。遺伝に関しては多発性内分泌腺腫と呼ばれる特殊な遺伝疾患の一部として出現する以外、遺伝形式は認められません。解剖学的な位置関係として下垂体は鼻の奥の蝶形骨洞と呼ばれる副鼻腔にあるトルコ鞍という骨のくぼみに存在し上方には左右の視神経と視交叉が存在します。下垂体に腫瘍が発生しこれが上方に成長していくことを鞍上部伸展といいます。鞍上部伸展がある一定に達すると視神経や視交叉を圧迫することになります。下垂体の正常の大きさは前後が約1.0cm、幅1.5cm高さ7mm程の小さな器官で前葉と後葉に分かれています。前者は元々脳とは違う組織由来で後に説明する様々なホルモンを分泌しており後者は脳と同じ神経組織由来で特に尿量を調節するホルモンを分泌しています。
また、下垂体は下垂体柄という構造物で脳の中の視床下部と呼ばれる人間の循環、体温、食欲などの重要な中枢がある部位とつながりここから種々のホルモン分泌の調節を受けています。これらのホルモンは人間が生きていく上で重要なものなので下垂体の疾患ではこれらのホルモンの欠乏あるいは過剰により様々な病態を引き起こします。したがって、下垂体腺腫による主な症状は腫瘍が上方に伸展し視神経や視交差を圧迫して起きる視力、視野障害とホルモンバランスの欠如に伴う内分泌症状の2つがあります。
下垂体腺腫はその内分泌学的側面から機能性腺腫と非機能性腺腫に分けられます。前者は前葉ホルモンのいずれか又は複数を分泌する細胞が腫瘍化したもので、後者はこれらの分泌を認めないあるいは活性のないホルモンを分泌している腫瘍です。前葉ホルモンには成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、乳汁分泌ホルモン(PRL)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、性腺刺激ホルモン(LH, FSH)がありますが、機能性腺腫として頻度の高いものは前3者です。以下にこれらの機能性腺腫の内分泌症状を解説します。

1)成長ホルモン産性腫瘍(GH産性腫瘍)
成長ホルモンは人が成長期に発育する上で重要なホルモンですが過剰に分泌されると様々な弊害が生じます。臨床的には成長期には極端な高身長となり成人では手足の肥大、顔貌の変化がみられて、軟部組織の腫脹や頑固な頭痛、発汗過多、関節痛といった症状が出現します。しかし、成長ホルモンの過剰分泌で最も問題になるのは高血圧、糖尿病、心臓病と言った成人病の誘発因子になる点です。また、感染症や癌の発生頻度も高いという報告もあります。

2)副腎皮質刺激ホルモン産性腫瘍(ACTH産性腫瘍)
ACTHは副腎に作用してコルチゾールというステロイドホルモンを分泌しています。コルチゾールによって起きる病態をクツシング症候群と呼び臨床症状として高血圧や高血糖、体重増加、満月様顔貌、色素沈着、骨粗しょう症、易疲労性、低カリウム血症などやはり重篤な症状を呈する可能性があります。高コルチゾール血症は下垂体腺腫のほか肺や縦隔等にできたACTH産性腫瘍あるいは副腎自体の腫瘍でも起きることがありますが全体の60から80%は下垂体腺腫に 由来するものでこれをクッシング病と呼んでいます。

3)乳汁分泌ホルモン産性腫瘍(PRL産性腫瘍)
乳汁分泌ホルモンの過剰による症状は女性では無月経や乳汁分泌が、男性では勃起不全また両性とも不妊症の原因になりますが一般的に男性では自覚症状が少なく大きく鞍上部伸展した形で発見される傾向があります。
以上、機能性腺腫の臨床症状を述べましたが内分泌症状としてホルモン分泌障害による下垂体機能不全も重要です。これは腫瘍の正常組織への圧迫でも起きます が手術で正常組織を傷害して起こることもあります。症状的には全身倦怠感や頭痛が主でひどいときはショックや昏睡状態になる可能性もあります。また、年間1から2%の頻度で下垂体腺腫内に出血が起き急激な意識障害や視力害を起こすことがありこれを下垂体卒中と呼びます。下垂体卒中は全盲となる危険性があり緊急手術の適応になります。非機能腺腫では臨床症状は視力、視野障害がほとんどで、一般的に視野の外側上方の欠落から始まり後々に下方も見づらくなります。典型的には両耳側半盲と呼ばれる視野欠境の形になります。

Aラトケ嚢胞
下垂体腫瘍と同じく、トルコ鞍近傍にできる嚢胞性の疾患です。内部に液体の溜まった袋状の塊で大きくなると視神経を圧迫し視野障害の原因となります。またしばしば炎症を起こすことで下垂体機能低下を招いたり、頭痛の原因となります。症状がある場合には治療の適応となりますが、なければ半年〜年に一回程度MRI等を用いて経過観察を行います。

B頭蓋咽頭腫
トルコ鞍の上部にできる腫瘍です。腫瘍が大きくなると視神経を圧迫し、さらに大きくなることで下垂体機能低下や、周囲の脳を圧迫し記銘力障害などの高次脳機能障害を引き起こすことがあります。病理的には良性腫瘍とされていますが、再発率が非常に高いことから手術によって腫瘍を取り去ることが重要となります。腫瘍のサイズ、形、硬さによって治療法が異なりますが、最近は鼻からの手術(拡大蝶形骨法)によって摘出できるようになってきています。

C斜台部脊索腫
トルコ鞍の下方の斜台と言われる骨より発生する腫瘍です。体の中心部より発生することで知られ、病理的には良性とされていますが、浸潤性に周囲組織に広がり、再発率が高いことで知られています。化学療法や放射線治療が効きにくいことから手術治療を要します。以前は大きく開頭を行い手術を行っていましたが、最近は経鼻手術が盛んに行われるようになってきています。

D鞍結節髄膜腫
髄膜腫は硬膜という脳を保護する膜付近より発生する腫瘍です。トルコ鞍付近から発生するものを鞍結節髄膜腫といいます。内頚動脈の内側に位置するような場合には拡大蝶形骨法という鼻からの手術で脳をほとんど触ることなく摘出することが可能となってきています。

治療法:腫瘍の種類によっては薬物治療が有効なものもあります。手術治療としては腫瘍の種類、サイズによって方法が異なりますが、主に鼻の穴から行います。通常右の鼻から内視鏡と道具2本を挿入し腫瘍の摘出を行います。体の表面には傷が残らず、非常に低浸襲です。ナビゲーションシステムという画像誘導技術を用い手術を行うことで安全性を高めています。近年、内視鏡技術の進歩により、より大きな腫瘍、頭蓋内にある腫瘍でも鼻腔に面した中心部にあれば鼻から摘出ができるようになってきています。(図3)

(2)水頭症及び水頭症関連疾患
水頭症は交通性水頭症と非交通性水頭症に分かれます。脳の周囲には髄液という水が存在しており、この水は一日に3〜4回ほど入れ替わるとされています。水頭症は何らかの理由で頭蓋内に、この髄液が貯留してしまった状態のことを言います。このうち、髄液の流れを遮るような疾患のあるものを非交通性水頭症といいます。これまで水頭症の治療は髄液を腹腔内に逃す脳室腹腔短絡術が主に行われてきました。この治療法は非常に簡便で歴史のある治療法でありますが、体内にチューブ、圧力を調整する機械を埋め込む必要があります。近年、内視鏡技術の発展により、非交通性水頭症において内視鏡を用いた開窓術を行うことでシャント手術を回避することができるようになっています。また非交通性水頭症の主な原因の一つに脳室内、脳室周囲腫瘍が挙げられ、治療に際しこれらの腫瘍細胞の一部を採取することで、病気の原因を調べることもできます。このような治療に用いられるのは軟性鏡という、胃カメラのように柔らかく曲がる内視鏡を用います。

(3)脳血管障害
脳卒中の一つである脳内血腫、脳室内血腫の手術は従来頭を開ける開頭術が行われてきました。内視鏡技術、止血デバイスの進歩により、1cm程度の小さな穴を頭蓋骨にあけ、そこから内視鏡と吸引管をいれて血腫を吸い取る手術が行われるようになり、本年度より保険適応となりました。この手術法は傷が小さく、周囲の脳をあまり触らないことで損傷を軽減させることができ、術後の回復が早く、術後早期にリハビリを行うことができるという利点があります。

(4)脳腫瘍
これまで内視鏡手術は空間のあるところ(外科などでは腹腔や胸腔、耳鼻科などでは鼻腔というように腔を利用)での手術が主でした。脳神経外科領域においても、鼻腔を介した下垂体腫瘍や脳室という空間を利用した脳室内腫瘍の摘出術が行われてきましたが、近年透明な筒を利用することで脳内の腫瘍を取ることができるようになってきました。この背景には、出血を止める止血デバイスの改良があります。嚢胞性の腫瘍や約3cm程度の腫瘍であれば摘出できることが増えてきました。このような腫瘍に対する内視鏡治療の利点としては
 ・小さな開頭で深部にある腫瘍を摘出できる(いわゆるkeyhole surgery)。
 ・深部であっても腫瘍の近くまでカメラを近づけることでよく観察することができる。
 ・筒を利用することで脳組織の損傷を軽減できる。
という点が挙げられます。現在もデバイスの開発は進んでおり、今後適応が更に広がる可能性が高いです。
 
図2
図2

図3
図3


■若手教育、手術シミュレーション(図4)
名古屋大学ではスキルスラボという手術シミュレーションを行う部署があり、当グループでは積極的にこれらを活用し若手の教育、手術のシミュレーションなどを行っています。現在は学内のみですが、今後施設の充実をはかり、学外の若手の教育にも取り組んでいく予定です。

図4
図4


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