名古屋大学大学院医学系研究科 脳神経外科
脳神経外科HOME >> 脳神経外科のご紹介 >>臨床研究グループ >> 脳血管内治療グループ

脳血管内治療グループ


1.グループ紹介

 脳血管内治療はカテーテルを用いて血管の中から脳の血管性病変を治療するもので、開頭することなく行えるという低侵襲性により現在大変注目を浴びている分野です。この数年、未破裂動脈瘤、破裂動脈瘤、頸動脈狭窄について観血的治療との無作為抽出比較試験による国際的レベルの検討で血管内治療の優位性が報告されてから、世界中でその需要が高まっています。
 脳血管内治療は透視下に作業を行い、その評価は常に脳血管撮影を基準にリアルタイムに行われます。我が名古屋大学の初代外科教授である斎藤 真先生は、1927年にポルトガルのEgas Monizとほぼ時期を同じくして世界で初の脳血管撮影を成功させました。それ以降脳神経外科の発展の中で脳血管撮影の果たした役割はきわめて大きなものがあります。近年あらゆる画像技術が発展し、脳疾患の多面的評価が可能になってきており、診断法としての血管撮影の重要性は薄れてきましたが、カテーテルを用いた手技(catheter intervention)はマイクロカテーテル技術の著しい進歩のおかげで、血管を写すだけでなく血管の中で作業をする方向に進化してまいりました。名古屋大学脳神経外科では、この分野にいち早く着目した初代脳神経外科教授景山直樹先生により日本脳神経血管内手術研究会が立ち上げられ、その主幹として1982年の第1回よりこの分野のパイオニアとして活動してまいりました。本研究会は第14回より日本脳神経血管内治療学会となり、会員数も2,000人を超える大きな会へ発展してきています。また、上記のような臨床スタディの結果の報道の影響もあり、脳血管内治療の需要は急増しており、本学同門で昨年は1,000例を超える脳血管内治療が行われました。これは、同門での脳血管内治療への期待と、大学から巣立っていったグループ員が各施設にて積極的に脳血管内治療を推進した結果であると思われます。
 日本の脳血管内治療は脳神経外科のsubspecialityとして位置づけられており、本学でも現教授の吉田 純先生により10年前に立ち上げられた脳神経病態制御学講座の中の脳血管内治療学分野はこのようなベースの上に発展して参りました。欧米では神経放射線医によって行われているこの手技が、脳神経外科医に主に委ねられているという我が国の特殊性は、治療適応や方針決定にバイアスがかからず、治療後の周術期管理も周到である等の利点が評価され、米国でも脳神経外科医が急速な勢いでこの分野に参画してきています。
 私たちのグループでは、脳血管内治療の知識・技術のみに偏らず、脳血管治療医としての幅広い見識を持った治療医の養成を目指しています。3年間のトレーニングの後、脳血管内治療専門医として羽ばたくことになりますが、三年前より始まったこの専門医試験で、同門からも多くの指導医、専門医を輩出しております。画像ネットワークシステムやカンファレンスなどを利用して、これらの治療医間はもちろん同門の中で脳血管内治療のコンサルトは頻繁に行われており、大学内外の情報交換はスムーズになってきました。今後さらに同門の脳血管障害治療成績向上のために優れた脳血管内治療医の養成を続けていくとともに、どこでも標準的な治療が行える体制を構築していくつもりです。
 脳血管内治療の適応疾患は、脳動脈瘤、脳動脈狭窄性病変の他、動静脈奇形、硬膜動静脈瘻、血管外傷、脳塞栓、血管性腫瘍など多岐にわたります。これらに対するスタンダードな血管内治療法は確立されつつありますが、未だ適応、合併症、長期成績など解決されるべき問題が存在します。カテーテルや塞栓物質にしてもまだまだ改良すべき点が多々あります。今後はさらに使いやすく安全なデバイスを開発するとともに、最も効果的な治療法を見いだすよう基礎的、臨床的検討が必要と思われます。
 基礎研究としては現在推進されている産学連携、医工連携を最も重要課題とし、新しい血管内治療機器の開発、血管内診断及び血管内治療に役だつ画像情報処理を特に工学部、大型計算機センター、企業と共に進めています。また、動物モデル、コンピューターシミュレーションモデルを用いた血管病変の血行動態の研究や病理学的検討を行っています。一方、現在当科では脳卒中救急医療ネットワークづくりを進めておりますが、脳卒中急性期における血管内治療の貢献についても検討しています。さらに、EBMに基づく医療をめざし、「治療の必要性」を常に頭に置いて、risk-benefit assessmentに基づいた適応決定をするべくガイドラインを作成し、最終的には脳血管障害のクリニカルパスの中へ導入していきたいと考えております。
 脳血管内治療は脳神経外科の治療モダリティーとして確立されてきており、インフォームドコンセントにも選択枝として不可欠のものになってきました。上述のように脳血管撮影に始まった我が大学の伝統を受け継ぎながら、この分野を発展させるべくグループ員一同日夜努力しております。  


診療の内容
 脳血管内手術の利点は、開頭せずに血管の中から脳の疾患を治療できるところにあり、入院期間も1週間程度ですみます。最近最も需要の多いのは脳動脈瘤であり、特に破裂動脈瘤については治療後の管理がきわめて容易であることから、患者さんの状態によってはコイルを用いた塞栓術を優先する施設も多くなってきました。頸動脈狭窄についてもステントが保険認可されて安全に行えるようになってきたことから、症例数がかなり増えてきました。脳動静脈奇形は全国的にあまり塞栓術が行われておりませんが、本学では積極的に治療戦略の中に取り入れており、その治療成績は全国的にも評価されております。硬膜動静脈瘻については、一昨年より行ってきた解剖学的研究に基づいた技術的習熟により根治率が高くなってきております。このほか腫瘍性病変に対して術中出血を減少させたり、手術をやりやすくするための塞栓術の他、頭蓋底手術前の動脈遮断テスト等も行っております。一方、脳塞栓に対する局所線溶療法は、ゴールデンタイム内での治療の有効性が認められておりましたが、昨年秋のt-PAの認可により、3時間以内の症例についてはt-PA静注療法が第一選択となっております。しかしながらこの適応基準きびしいものであるため、適応外症例については血管内アプローチによる動脈内局所線溶療法の可能性が残されております。
 一方、「侵襲が少ない」=「安易に行える」という考えは戒め、治療のリスクについて常に危機管理を行っており、外科的治療の必要性については常に学会や論文などの情報を基に適応を厳格にしております。この姿勢が評価され、セカンドオピニオンも増えてきております。治療必要な患者を見過ごさない、治療不要な患者が無駄な治療をうけることを防ぐことにより、医療レベルと安全性の向上に寄与していきたいと思っております。
 また、この分野では新しい治療機器がどんどん導入されておりますが、当院では我が国で初めての治験を担当するなど、最新治療を行える環境を整えかつ実践をしています。


診療の実際
名古屋大学同門脳血管内治療データ〔過去10年間〕(  )内は2007年の数
脳動脈瘤塞栓術 1,568 (365)
未破裂 854(172)
破裂 714(193)
脳動静脈奇形塞栓術 312(25)
硬膜動静脈瘻塞栓術 421(63)
血行再建術  
血栓溶解療法 171(14)
血管拡張術 725(233)
その他 704 (68)
合 計 3,901(768)


研究の概要
脳血管内治療学の現在の取り組みの骨子
1. 脳卒中(脳動脈瘤、脳動静脈瘻)の病態解明と治療ガイドラインの作成
  病因解析と治療結果の分析による至適治療の追求
2. 脳血管内治療のための診断技術の開発
  動脈瘤内血流のコンピューターシミュレーションによる治療支援
3. 新しい脳血管内治療法の開発
  マイクロマシンや、再生医療を応用したオーダーメイドデバイス
4.画像転送による血管内手術(及び診断)支援
  高容量画像回線を利用した遠隔医療支援


2.メンバー紹介

【グループメンバー】
*: 脳血管内治療専門医、**:脳血管内治療指導医
泉 孝嗣 Takashi IZUMI** (平成10年卒:病院講師)
松原 功明 Noriaki MATSUBARA** (平成12年卒:病院助教)
     
新帯 一憲 Kazunori SHINTAI (平成19年卒:大学院生)
田島 隼人* Hayato TAJIMA (平成19年卒:大学院生)
伊藤 真史 Masashi ITO (平成20年卒:大学院生)
今井 資 Tasuku IMAI (平成20年卒:大学院生)
西堀 正洋 Masahiro NISHIHORI (平成20年卒:大学院生)
佐藤 雅基 Masaki SATO (平成20年卒:大学院生)
玉利 洋介 Yosuke TAMARI (平成21年卒:大学院生)

◆関連病院脳血管内治療グループメンバー
半田 隆*   (昭和57年卒:常滑市民病院)
中林 規容**   (昭和60年卒:市立四日市病院)
高橋 郁夫*   (昭和61年卒:安城更生病院)
福井 一裕**   (昭和61年卒:福井脳神経外科)
岩越 孝恭*   (昭和63年卒:多治見市民病院)
服部 智司*   (昭和63年卒:ちくさ病院)
文堂 昌彦   (昭和63年卒:国立長寿医療センター)
高木 輝秀*   (平成元年卒:高木外科内科医院)
岡本 剛**   (平成4年卒:名古屋第一日赤病院)
佐原 佳之*   (平成4年卒:公立陶生病院)
服部 光爾   (平成5年卒:愛光病院)
小林 望**   (平成6年卒:海南病院)
小島 隆生**   (平成7年卒:名古屋第二日赤病院)
鈴木 宰*   (平成7年卒:名古屋掖済会病院)
服部 健一*   (平成8年卒:名古屋第一日赤病院)
飯塚 宏*   (平成9年卒:小牧市民病院)
中根 幸実*   (平成11年卒: 豊田厚生病院)
大島 共貴**   (平成11年卒:刈谷豊田総合病院)
見 有史**   (平成12年卒:見脳神経外科)
細島 理*   (平成12年卒:見脳神経外科)
錦古里 武志*   (平成12年卒:岡崎市民病院)
内藤 丈裕*   (平成14年卒:春日井市民病院)
原口 健一*   (平成15年卒:豊橋市民病院)
浅井 琢美*   (平成17年卒:名古屋医療センター)
山之内 高志*   (平成17年卒:大垣市民病院)
太田 圭祐*   (平成18年卒:中部労災病院)
宮地 茂**   (昭和58年卒:大阪医科大学)
根来 真**   (昭和43年卒:一宮西病院)

【研究の紹介】
 我々は常に臨床の場から生じた疑問を解決するためにそれに対する実験系を開発し、証明すると共に、その中から逆に治療法へのヒントや、新しい治療法が生まれ、それを臨床応用に結びつけようとしています。従って、基礎研究も常に臨床に密着した研究を目指しています。

【コンセプト】
・脳血管内治療適応疾患の病態の解明 ・脳血管内治療に必要な診断法の開発 ・新しい脳血管内治療技術の開発


A. 基礎研究
1)動脈瘤の血行動態のコンピューターシミュレーションによる解析
 情報基盤センター及び企業のスーパーコンピューターを用いて、動脈瘤内における血流、壁への圧力、剪断力などを様々なモデルを用いて分析しています。実際の脳動脈をシミュレーションした血管モデルに人工的にパターン化したモデルを用いて、瘤口の大きさ、瘤のサイズ、突出方向などを拍動流のもとで検証し、瘤の伸展方向や圧のかかり方について新しい知見が得られています。また、実際の動脈瘤の形を模したモデルでは破裂瘤における瘤壁へのストレスについて知見が得られており、様々なパターンを検証中です。現在中大脳動脈における破裂・未破裂瘤の違いについて、瘤内血流の違いが明らかとなっております。瘤の破裂のメカニズムにも応用できると思われます。今後この作業をスピードアップすることにより個々に全く異なる形や大きさをもつ動脈瘤個別の血行動態の解析を行い、オーダーメイド治療へ役立てる方向です。

2)血管内治療におけるガイドワイヤーの血管壁への影響
 血管内操作においてガイドワイヤーは血管の屈曲部などでかなりのストレスを血管壁に与えていることは事実であり、これによる内膜の解離や血管の穿通は重篤な後遺症に結びつく大変危険な合併症であります。ワイヤーを押すときのたわみを評価することにより、血管壁への圧力のかかり方を検討し、この合併症を未然に防ぐようなシステムを、名古屋工業大学と共同で開発中です。

3)血管内治療トレーニングのためのシミュレーションモデルの開発
 血管内治療の初心者がマイクロカテーテルの操作の練習をするのに、シリコン性チューブ内では、辷り、拍動、壁の硬さなど生体とはあまりに相違が大きく、実際には余り役立たないことは明らかです。大動物にてヒトと同じシステムで行うのが理想的ですが、困難な問題が多いため、ラットなどの小動物、PC、バーチャルテクニックを用いて同じような塞栓術のトレーニングができないかを、方法、デバイスについて検討中です。


B. 臨床研究
1)脳動脈瘤の分岐発生の形態的研究
 血管の分岐部に発生するとされる脳動脈瘤の多くは分岐部から少し分枝側に発生します。まず上小脳動脈分岐部瘤について検討を行い、破裂・未破裂瘤間での比較検討も行い、興味ある治験が得られました。今年は後下小脳動脈(PICA)瘤について検討していく予定です。

2)硬膜動静脈瘻における病態進展メカニズムの解明
 硬膜動静脈瘻にほとんど合併している罹患静脈洞の血栓性閉塞に着目し、深部静脈血栓症患者でしばしば異常値をとる凝固線溶因子の分析を行いました。この中で特にD-dimerが病態進行及び治療効果判定の指標として有用であることが明らかとなっています。

3)動脈瘤塞栓術後再発例の検討
 コイル塞栓術後にcompaction, regrowthが特に広柄瘤や大型瘤では問題となっております。再発例の治療後の経過について同門蓄積データをもとに検討しています。

4)脳動脈瘤塞栓術における急性血栓性合併症のメカニズムの検討
 広柄瘤ではコイルの突出や瘤内血栓の親動脈への波及により、ネック付近での急速な血栓形成が進み、親動脈や分枝を閉塞することがあります。このメカニズムについて血行力学的に検討しています。

5)脳動静脈奇形に対する塞栓術の長期成績
 摘出術、radiosurgery前の治療として行われている塞栓術が、長期的には動脈のような影響を及ぼすのかを、自験例をreviewして明らかにしていきます。


C. 全国的臨床研究へのエントリー
1)破裂動脈瘤急性期の血管内治療についての全国調査(RESAT)
 3年前より続けられている全国主要施設の治療成績と合併症の後ろ向きデータ集計。一昨年のデータではクリッピングとの比較にて血管内治療の有用性が確認されています。当院は指定施設としてデータ登録を続けています。

2)脳動脈瘤塞栓術における脳血管内治療に関する研究(JACE trial)
 国立循環器病センターを主任とする未破裂脳動脈瘤塞栓術における抗血小板療法の有用性と危険性の検討を行うランダム化比較試験。当院は分担研究者としてプロジェクトに参加し、画像判定委員としての役割を受け持っています。これまでに4例登録しています。内容を少し変えた形でのJACE II trialが開始され、今後も症例登録を行っていく予定です。

3)平成17年度循環器病研究費事業「カテーテルインターベンションの安全性確保と担当医師の教育に関する指針(ガイドライン)作成に関する研究」
 分担研究として昨年動静脈奇形における塞栓物質の使用状況を調査しました。今後も我が国としてのコンセンサスを得られるようにまとめていく予定です。

4)破裂脳動脈瘤塞栓術の前向き登録(PRESAT)
 破裂脳動脈瘤を前向きに悉皆登録し、全体的な治療成績について検討するトライアル。これについても登録を近々開始しエントリーする予定です。


H. その他
1)日本脳神経血管内治療学会における優秀論文賞受賞について
 本年の第25回日本脳神経血管内治療学会総会における原著論文審査で、全論文部門の最優秀論文賞(金賞)を大島共貴先生が、機関誌(JNET)部門における最優秀論文賞(金賞)を松原功明先生が受賞しました。昨年の第24回総会では泉 孝嗣先生が銀賞を受賞しており、我々のチームの研究が高く評価された証と思われます。この伝統を次ぎ年度へつなげていくためにもグループ一丸となって精進するつもりです。

2)日本脳神経外科学会中部支部学術集会優秀論文賞受賞について
最後に

 昨年は後半にいろいろ予期せぬ合併症が生じました。初心に帰り、適応を厳格にし再度治療の本質を追究する姿勢で今年も精進したいと思っております。特に今年5月からは新しい最新の血管撮影装置が導入され、我々の治療の安全性、質ともに向上できると期待しています。この装置を用いて様々な亜新しい試みをしていく予定です。情報開示の時代となり、我々はコンセンサスを得た治療を行っているかどうか、治療レベルを維持しているか等を他覚的に評価されることが必然となっております。脳卒中全体としての治療を行っていく上で、脳血管内治療は重要なポジションとなってきておりますので、全体的なバランスを見ながら様々な角度から最も適した脳卒中治療を追求して行きたいと思っています。同門の血管内治療数は年々増えておりますが、今後も豊富な症例をもとに細かな分析をしていきたいと思っておりますので、同門の先生方のご協力とご支援を是非ともお願い申し上げます。
 また、臨床のみにかたよらず、大学院のテーマとして基礎・臨床の両面からモデルや臨床データを用いてメカニズムの解明や治療方法の研究も併せて行っています。経験のみに頼っている感のある脳血管内治療学に、「科学」をとりいれることは大学でしかおこなえない仕事であります。スケールが大きくかつ非常に優れた本学の理学部、工学部の研究基盤とのコラボレーション、またベンチャー企業との連携によりユニークな研究を進めていきたいと思っています。また、この領域は一つのデバイスの評価が確立する前にさらに改良型のデバイスが現れるほどの進化の激しい分野であります。残念ながら新たな機器の認可が異常に厳しくかつ遅い我が国では、新しいデバイスの発明はきわめて困難でありますが、外国からの有用なデバイスについては他国に遅れないように早期導入、早期適用が必須であります。このような新製品に対する機能評価のための拠点として当院は位置づけられておりますので、他の施設と協力して日本の脳血管内治療の発展のために邁進するつもりです。脳卒中治療、脳血管内治療に興味ある方および我々と研究を一緒にやりたいと思われる方を歓迎いたします。

↑このページの先頭へ