▽研究テーマ

II) 臨床現場へのトランスレーションを目指して:

i) ゲノミクス解析を基盤とする展開

肺腺癌のWHO分類は多くの問題を抱えていますが、ゲノミクス解析研究を通じて発症母地リネッジと関連する2種類に大別可能なことを示した私たちの研究成果は、WHO分類改定へ向けた国際的ワーキンググループにおける検討に大きな影響を与えました。また、肺癌は難治癌の代表例であり、外科的切除が現時点で完全治癒の希望をもたらしえる唯一の治療法です。しかし、実際には早期のI期症例の約30%は術後に再発しますが、その予測は極めて困難です。私たちは、肺癌腫瘍組織の網羅的な遺伝子発現解析データに対して、綿密なバイオインフォマティクス解析を加えることによって、I期症例の中においてさえも極めて高精度に術後再発が90%近くにも及ぶ極度のハイリスク群を同定可能な、発現シグネチャーの同定と予後予測判別モデルの構築に成功しました。転移巣が極めて微少なうちにテーラーメイドに強力な術後治療を加えることで、大幅な再発の抑制と生存率の改善が期待されます。現在、広く臨床応用するための研究開発を産学連携によって進めています。また、最新のバイオインフォマティクス解析手法の応用によって、肺癌の外科手術後に再発・死亡に至った患者さんの癌細胞には、mTORに集約するパスウェイが劣悪な微小環境への適応につながる脱統御を示すことも明らかとしています。
 現在、mRNAのトランスクリプトームのみならず、マイクロRNAを含むノンコーディングRNAのトランスクリプトーム解析を進めており、がんの分子或いは臨床病態との関連性について多角的に検討を加えて、より良く肺癌の個性を描出し、さらに高精度な再発・死亡の予測や薬剤感受性予測を実現して行きたいと考えています。