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膠原病

研究グループ:“Cell Stress & Autoimmunity”研究班

研究キーワード
 膠原病、強皮症、皮膚筋炎、自己免疫、抗核抗体、DFS70/LEDGF、表皮角化細胞、分化、小胞体ストレス応答
分野の概要
(1)膠原病・各種疾患における抗核抗体と対応抗原の病理学的解析
(2)表皮角化細胞におけるDFS70/LEDGFと小胞体ストレス応答の研究
項目内容
 リウマチ性疾患である膠原病の病因に関しては未だ不明であるが、その基本病態は自己の成分に対する免疫反応が存在する自己免疫疾患としてとらえることができる。我々は患者血清中に存在する数々の自己抗体とその抗体が認識している自己抗原の解析を分子生物学の手法によって解析する事により、それらの臨床的意義や病態における重要性を明らかにしてきた。たとえば、染色体セントロメアに対する抗体は強皮症患者に見られる自己抗体のひとつとして知られているが、患者血清中の自己抗体はセントロメアの複数の機能ドメインを認識し、抗原蛋白の高次構造と反応することを見い出した。また、我々が世界に先駆けて報告した抗セントロメア抗体に並存する3種の抗体が陽性である例は異なった臨床のサブセットを形成することを報告してきた。また、近年ではアトピー性皮膚炎患者血清中に高率に見られる抗核抗体として我々が初めて報告をした抗DFS70抗体について精力的に研究している。抗DFS70抗体は健常人の一割に存在する自己抗体でもあるのに対して、膠原病患者にはあまり見られない抗体で、膠原病に特異的なマーカー自己抗体が陰性の場合は、たとえ抗核抗体が陽性であっても、それが抗DFS70抗体であれば膠原病の可能性は非常に低いといえる。しばしば抗核抗体陽性という結果が膠原病という過剰診断を臨床の場で引き起こしている昨今、本抗体の同定は抗核抗体陽性というだけの患者に不要な心配を与えず、また必要以上な検査を排除し、医療経済的な側面からも重要といえる。本抗体の検査キットは企業との共同開発によって、近年世界市場で販売されている。また、このDFS70は別名LEDGFともいわれる成長因子、抗ストレス因子としての側面も合わせ持ち、この抗原が正常表皮では主に細胞質に存在し、乾癬表皮では核内に存在することを発見し、その核内局在の意義について検討をしている。さらに、表皮角化細胞の分化の研究から、小胞体ストレス応答と表皮角化細胞の分化の関係を見出し、研究を進めている。
研究プロジェクト(1)
セントロメア構成因子に対する自己免疫応答の解析
概要;強皮症患者血清中の抗セントロメア抗体を用いた対応抗原の同定、精製およびセントロメアの機能解析、また各種セントロメア自己抗原の自己免疫エピトープの解析を中心に行ってきた。血清中の抗セントロメア抗体の対応抗原はCENP-A,B,Cの3種類に代表され、そのうちの一つのCENP-Bがセントロメア領域に局在する、繰り返し配列をもった特徴的なDNA(アルフォイドDNA)と直接相互作用することや、その作用様式から、セントロメアにおけるヘテロクロマチン形成機能に関わる論文を報告してきた。また、CENP-A,B,Cの自己免疫エピトープを全て明らかにし、それらの結果は保険収載の抗セントロメア抗体検査キットにも応用されている。抗セントロメア抗体に併存する自己抗体のうち、抗クロモ(HP1)抗体は、抗セントロメア抗体陽性の原発性シェーグレン症候群という新たに提唱されている臨床サブセットを説明しうる重要な抗体として、日本シェーグレン症候群学会における国内他施設共同研究の課題にされており、全国からの血清解析を担当している。さらに、現在、CENP-A,B,Cの全エピトープパネルELISAの開発を進めている。

ヒト染色体を用いた間接蛍光抗体法

(画像)ヒト染色体を用いた間接蛍光抗体法
研究プロジェクト(2)
乏筋炎性皮膚筋炎のマーカー自己抗体"抗MDA5抗体"と癌合併皮膚筋炎のマーカー自己抗体"抗TIF1-γ抗体"の検出系の開発
概要;皮膚筋炎の生命予後を左右する二つの病態に、急速進行性間質性肺炎の合併と内臓癌の合併がある。前者の血清学的マーカーとして抗MDA5抗体、後者のマーカーとして抗TIF1-γ抗体がある。我々は、ラジオアイソトープを使わない、両抗体の特異的検出系を開発した(Hoshino K, et al, Rheumatology (Oxford) 49:1726-1733 2010)。両抗体の検査を早期に行うことで、皮膚筋炎の病型分類および早期治療を含め治療方針の決定に大いに役立てることができると考えている。また、MDA5は細胞内のウイルスセンサーとして自然免疫系での重要な役割を担う分子であることがわかっており、一方、TIF1-γはTGF-βのシグナル伝達経路における重要な分子であることが判明している。これら二つの分子の機能と皮膚筋炎の発症に関連があると考え、現在その病態における関与を研究中である。

試験管内転写翻訳系を用いた免疫沈降法

(画像)試験管内転写翻訳系を用いた免疫沈降法
研究プロジェクト(3)
DFS70/LEDGFの乾癬表皮における局在とその病理学的意義
概要;我々は、正常表皮においてDFS70が主に細胞質に存在することを発見した(Sugiura K, et al, J Invest Dermatol 127:75-80.2007)。DFS70は転写補助因子であるが、近年、細胞周期S期主要キナーゼのCDC7/ASKの活性化因子としても働くことが解明された。乾癬病変部表皮ケラチノサイトにおけるDFS70の病態への関与についての検討を行った。免疫組織化学法にて、正常皮膚組織表皮の細胞質内局在とは異なり、乾癬病変部表皮ではDFS70は核内に局在した。次に、EGFP-DFS70トランスジェニックHaCaT細胞(DHaCaT)とEGFPトランスジェニックHaCaT細胞(EHaCaT)を作製した。DHaCaTではEGFP-DFS70は核内にも局在した。DHaCaTはEHaCaTと比較して、ウエスタンブロット、リアルタイムPCR、ELISAにてp38が活性化し、IL-6を誘導し、STAT3が活性化していることがわかった。この結果は、DFS70特異的siRNA、p38阻害剤SB203580とSB239063、p38特異的siRNA、IL-6特異的siRNAを用いた阻害実験にて検討し確認した。以上より、乾癬病変部表皮ケラチノサイトにおいてDFS70が病態に関与する可能性があると考えた(Takeichi T et al, J Invest Dermatol 2010, Jul 15. [Epub ahead of print])。乾癬表皮におけるDFS70の意義について更に研究を進めている。
研究プロジェクト(4)
表皮角化細胞の分化における小胞体ストレス応答の意義
概要;正常表皮では、ケラチノサイト(KC)は基底層で増殖し、有棘層から分化している。私たちは、この細胞の分化に伴って小胞体ストレス応答(UPR)が活性化すること。さらにこのUPRの活性化によりKC分化関連遺伝子C/EBPβ、KLF4、ABCA12がATF4あるいはXBP1-S経由で誘導されることを世界に先駆けて明らかにした(J Invest Dermatol 129, 2126-2135, 2009)。さらに、KC増殖性疾患である尋常性乾癬と有棘細胞癌のKCでは正常表皮で観察されるUPRの活性化が起こっていないことを明らかにした。UPRとは、タンパク質産生の亢進あるいは小胞体内のカルシウム減少などが原因で、小胞体内に折りたたみ異常蛋白質が蓄積したときに生じる転写因子の活性化に引き続いた小胞体内シャペロンの転写誘導などのシグナル伝達システムである。いわば、小胞体ストレスを介した細胞のホメオスタシス維持のための機構である。KCの分化異常(増殖化)は、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬等の幼少期~中年期に罹患する一般的な皮膚病だけでなく、脂漏性角化症、日光角化症、有棘細胞癌等の、老年期によく罹患する皮膚病にも見うけられる共通の病態である。高齢化社会、アトピー性皮膚炎の増加等、全年齢層で皮膚科疾患罹患者は増加している。UPRとKCの分化と増殖の関係に着目した研究は我々のグループが先駆けであり、非常に特色のある研究を展開している。
(画像)

図説 正常表皮の免疫組織化学 Bip(UPRマーカー)

(画像)図説 正常表皮の免疫組織化学 Bip(UPRマーカー)

名古屋大学皮膚科における膠原病診療の歴史

 当科において膠原病診療に特に力を入れるようになったのは、第4代 小林敏夫教授(1974-1979)、第5代 大橋勝教授(1979-1997)の時代からであると言えよう。特に大橋勝教授は電子顕微鏡を用いた研究では有名で、また安江隆助教授(1981-1994)は秀でた臨床能力で多数の患者さんの難治病態の診療に当たった。現在では、アメリカリウマチ協会エリテマトーデス研究班の班長であったTan博士の門下生の二人、室慶直准教授(リウマチ学会指導医)、杉浦一充准教授(リウマチ学会専門医)が中心となり、数多くの膠原病を的確に診断し、それぞれの患者さんに最適と思われる治療を行っています。

治療対象としている疾患と診療実績
 強皮症(モルフェアを含む)、皮膚筋炎、エリテマトーデス(DLEを含む)、シェーグレン症候群、結節性多発動脈炎、混合性結合組織病、抗リン脂質抗体症候群、ベーチェット病、乾癬性関節炎 などの膠原病及び膠原病類縁疾患の患者さん200名以上が通院中。
特記すべき診療技術
 さまざまな自己抗体の膠原病発症に果す役割の研究や、診断用自己抗体の測定キットの開発等を行っている。抗核抗体の独自の検査と皮膚症状を始めとする特徴的な症状から、膠原病患者さんの早期診断と疾患の鑑別を行っている。
 治療にあたっては、臓器別内科等、他科の協力を得ながら、ステロイド療法や、それに代わる免疫抑制剤療法等を逸早く導入し、比較的良好な成績を治めている。たとえば、びまん型強皮症の早期硬化に対するステロイド療法、間質性肺炎に対するシクロフォスファミド静注療法、皮膚筋炎の急速進行性間質性肺炎に対するステロイド+シクロスポリン+シクロフォスファミド静注療法などが挙げられる。
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