教育セミナー 5 / Educational Seminar 5
先天性心疾患の手術適応と至適手術時期
斎藤 彰博 → 金 成海
静岡県立こども病院 循環器科
Operative
indications of congenital heart disease and optimum age for surgery
Akihiro Saito
Shizuoka Children’s Hospital, Division
of Cardiology
T.はじめに
先天性心疾患の中にはチアノーゼを認めるものから認めないものまで数多くの疾患が含まれ、各疾患はいくつかの病型に分かれ、症状も全くの無症状から緊急の処置を要する心不全状態まで多岐に渡る。このため各疾患の手術適応や手術時期も、疾患名や病型、重症度によりことなってくる。
心臓の手術には生命の危険も伴い、合併症や後遺症の可能性もあるので、一般に手術の危険性や合併症と比較して、より大きな負担がある場合に手術適応となる。この場合の負担には、低酸素血症や心不全、呼吸不全、肺高血圧などが含まれ、内科的治療に限界がある場合に手術介入を考慮することになる。現在の状態は悪くないが、ある程度以上の容量負荷や、圧負荷、合併症があるために、将来的に確実に心負荷が増大することが明かな場合には、負荷が症状として表れる前に手術を勧めることもある。
ただし、手術の危険性や合併症の確率は施設によりことなるため、手術適応や手術時期も施設により多少異なっているのが現状である。
U.疾患毎の手術適応
A)非チアノーゼ性心疾患
1) 心室中隔欠損(VSD):
先天性心疾患のなかでもっとも頻度の多い疾患で、その中でも約80%を占める膜様部欠損や、筋性部欠損では自然閉鎖や縮小の可能性もあるので、内科的管理を第一に考える。その中でも、肺高血圧を合併している症例や、心不全や呼吸不全の強い症例は乳児期に手術を行う必要がある。特にDown症候群に合併したVSDでは、早期に不可逆性の肺血管病変を合併する危険があるので、3〜6ヶ月以内に手術を行う。
乳児期以降まで待機できた患者でも、肺血流量が多い場合には手術適応となる。一般に、肺体血流比が2.0以上では手術を勧めることになる。肺体血流比が1.5以下では手術の適応は無いが、肺体血流比が1.5と2.0の間では、呼吸器感染が頻回であったり、発育が遅れたり、他の社会的要因で手術適応となる場合がある。
両半月弁下欠損(T型)や膜様部欠損(U型)では大動脈弁直下を高速の短絡血が流れるため大動脈弁逸脱などの弁の変形を来したり大動脈弁逆流を引き起こすことがある。大動脈弁の変形や逆流は進行すれば大動脈弁置換を必要とすることもあるため、大動脈弁逸脱が明瞭であったり、大動脈弁逆流を合併してくるようであれば、短絡は少ないとしても手術の適応となる。
短絡のために拡大した肺動脈や左房などが気管を圧迫して気管狭窄を引き起こし、無気肺や肺気腫を合併してくることがある。気管狭窄を認め、その原因が心臓や肺動脈にある場合には手術適応である。
一方、高度の肺高血圧を合併した場合には手術不適応となることがある。一般には肺血管抵抗が12単位以上では手術適応はないといわれているが、心臓カテーテル検査時の呼吸状態や、鎮静の状態などを加味して判断すべきで、判断に迷った場合には肺生検で最終的に判断することもある。肺血管抵抗が高い場合でも手術前後に酸素療法を行ったり、血管拡張剤を使用して乗り切れる場合もある。
2) 心房中隔欠損(ASD):
新生児期から乳児期にかけて認められる卵円孔の不完全な閉鎖による左右短絡を除き,心房中隔欠損は自然閉鎖が期待できない。施設により多少異なるが,心臓カテーテル検査での肺体血流比が1.5から2.0以上は手術適応と考えられているが,当科では2.0以上はそれだけで手術適応と,1.5から2.0の間では,頻回の感染症罹患や発育不全、その他の社会的要因がある場合に手術適応と考えている。
最近では心房中隔欠損の術前に心臓カテーテル検査を行わない施設も増加しているが,心エコー検査での欠損孔の径が10mmを超える場合には有意の左右短絡があると考えられており,手術適応である。肺高血圧や心不全、呼吸不全などを合併した症例は急いで手術を行う必要がある。
手術時期は,成人心房中隔欠損では肺高血圧を合併したり,弁の逆流,不整脈,心拡大などを合併してくる可能性が高いので,小児の内に行うのが原則である。一般にはその施設で無輸血体外循環が可能と考えられる体重になったら手術を行っている。
近い将来に非手術的にカテーテルを用いたDevice閉鎖が可能となるので,家族には十分な説明が必要である。
3) 動脈管開存(PDA):
一般に動脈管は生後4ヶ月までは自然閉鎖の可能性があり、それ以降に短絡を認めるものは、小短絡でも感染性心内膜炎の危険性があり,手術の危険性がかなり低いので,全例で手術適応となる。それ以前でも、未熟児動脈管開存の様に,循環不全や呼吸不全が強く内科的管理が困難な場合にはその時点で手術適応となる。
他の左右短絡疾患と同様に,肺高血圧や気道圧迫による気道狭窄を合併している場合には早期に手術を行う。
カテーテルを用いたcoil塞栓術が広く行われている。確実性では手術の方が勝っているが、費用や入院日数、手術創などの点ではカテーテル治療が優位である。
B)チアノーゼ性心疾患
チアノーゼ性心疾患は低酸素血症を有し、チアノーゼ発作や血栓症などの危険もあるので、全例で手術適応がある。しかし、左心低形成症候群や無脾症候群、共通肺静脈腔閉鎖などの重篤な疾患に対しては、手術適応が無いと判断する施設があるのも事実である。前述したように、手術適応は施設の経験や体制で異なってくる。また、最終手術が二心室治療が可能な疾患と一心室治療(Fontan型手術)しか可能でない疾患とがあり、手術時期や術式は自ずからことなる。
1)二心室治療が可能な疾患
完全大血管転位:生後2週間以内に根治手術(Jatene手術)
ファロー四徴:乳児期に根治手術
総肺静脈還流異常:診断後早期に根治手術
総動脈幹症:診断後早期に根治手術
2) 一心室治療群
無脾症候群:新生児期に総肺静脈還流異常解除、共通房室弁修復、ブラロック手術 乳児期にGlenn手術またはFontan手術
左心低形成症候群:診断後早期にNorwood手術、乳児期に手術またはFontan手術
単心室、三尖弁閉鎖:新生児期に肺動脈絞扼かブラロック手術 乳児期にGlenn手術またはFontan手術
C)緊急手術、準緊急手術を要する疾患
代謝性アチドーシスや重篤な呼吸不全を合併してきた疾患は、重症度の程度により緊急または、内科的治療後に早期に手術を行うことになる。
大動脈縮窄/大動脈離断:診断後早期に一期的根治手術を行う
左心低形成症候群:診断後早期にNorwood手術
総肺静脈還流異常:診断後早期に根治手術