名古屋大学大学院 医学系研究科 機能構築医学専攻 機能組織学

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教室紹介

教室代表からの挨拶

木山博資
教授 木山博資 (Hiroshi Kiyama)
挨拶

2022年度が終わろうとしています。2020年春から3年間続いたCovid-19禍は8回も波状にピークが押し寄せる大惨事となりました。何度も緊急事態宣言が発令され、講義や学会はほとんどがWeb開催となってしまいました。この間私たちが主催した第126回日本解剖学会と第98回日本生理学会の合同大会もWeb開催となり、40年ぶりの名古屋での大会が対面で開催できず残念でした。また、脳の医学・生物学研究会も2020年は無開催、2021年は69回70回とWeb開催となり、2022年8月27日にようやく第71回を対面で開催することができ、第72回は来月4月15日に予定しておりますが、コロナ前に近い状態での開催を予定しています。100年前のスペイン風邪も約3年間、今回のCovid禍も約3年間継続しており、感染症パンデミックの恐ろしさ、社会に与える影響の大きさを今更ながら考えさせられました。
2022年度は玉田宏美助教が福井大学に移動し、永田健一助教が講師に昇任しました。教室の主要なスタッフは桐生、小西、永田の3名となりました。
教室員は皆各自のテーマで研究を続けており、研究成果としては桐生・小西とも最新の研究がEMBO J にそれぞれ受理されるなど順調に研究が進んでいます。また、永田は創発的研究支援事業に採用され、データサイエンスを取り入れた今後の研究が大いに期待されます。先日開催された第128回の解剖学会(仙台大会)では、福井に移動した玉田も含め、皆異なる分野のシンポジウムにinviteされその成果を発表できました。研究費の面でも、桐生・小西ともに異なる学術創成の公募班にそれぞれ採用されるなど、皆が独自の分野で自立してそれぞれ力を発揮しており嬉しく思っています。
また、木山が着任以来の懸案と考えていた名古屋大学に残されている組織実習用の貴重な図譜を2022年度に冊子体の形でまとめることができました。機能組織学教室(第二解剖)の技官で画家であった木戸史郎さん(1938~1969年在籍)が描かれた、組織図譜435点のうち160点をとりまとめ、「名古屋大学人体組織圖譜」として冊子にまとめることができました。この出版には名古屋大学博物館の門脇誠二先生のご尽力をいただくと同時に、出版費用は名古屋大学創基150周年記念事業から補助いただきました。
早いもので、私もあと1年で定年退任をむかえます。2023年3月には2017年から続いた副研究科長や日本解剖学会の常務理事をStep downさせていただき少し身軽になる予定です。やり残したことは多々浮かび上がってくるのですが、この1年でできるだけ片付けたいと思っています。

2023年3月30日 木山博資




機能組織学/第二解剖学教室の沿革

解剖学教室の沿革をたどれば、明治4年の名古屋落仮医学校設立まで遡る
大正6年浅井猛郎教授の就任によって第一講座が開設
大正8年佐藤尾一教授が第二講座開設
昭和6年、国立名古屋医科大学となる
昭和7年戸苅近太郎教授が就任

戸苅教授の研究は、卵巣、黄体の組織発生や甲状 腺、上皮小体、副腎、胸腺など諸内分泌腺の組織発生および生後発育にわたる広範なものであり、杉山鉦一(元第一講座教授)、原淳(元第二講座教授)、伊藤 隆(北海道大学名誉教授)、山田和順(名古屋市立大学名誉教授)、永津郁子(前藤田保健衛生大学教授)、星野洗(元第二講座教授)ら多くの人材を育て た。昭和28年に上梓された戸苅近太郎著・組織学(南山堂)は本学での講義実習から生れた教科書である。その後改定が重ねられ、伊藤隆(北海道大学名誉教授)に引き継がれている。

昭和35年、原淳教授が着任し、上皮小体の機能的構造の研究を進めた
昭和46年、原教授定年退官後10年の間教授空席
昭和56年から平成8年まで星野洸教授が担当
平成8年、杉浦康夫教授が着任し、疼痛メカニズム解明の研究を進めた
平成12年に大学院重点化に伴って講座名が改称され、機能組織学となる
平成22年、杉浦康夫教授定年退任
平成23年、木山博資教授が着任
2020年 1月    

名古屋大学医学部学友会時報
     

研究内容

(1)神経再生メカニズムの解析

(i)神経再生関連遺伝子探索

神経再生のメカニズムを解明し、損傷神経の再生や神経変性疾患の進行抑制への応用を目指しています。末梢神経は再生しますが、中枢神経は再生しにくいとされています。そこで、再生可能な末梢神経の損傷モデル動物を用いて、その再生現象の全貌の解明を目指します。各種のゲノミクスやプロテオミクスのスクリーニングの手法を用い、今までに既知・未知の数多くの分子が神経損傷後に発現し、様々な機能を発揮していることを明らかにしました。これらのスクリーニングで得られたパーツ(分子)を組み合わせてゆくことで、神経再生の様子が徐々に浮かび上がってきつつあります。

(ii)遺伝子発現の統御機構

実際に損傷を受けた神経細胞が再生する過程では、実に多くの分子が複雑な相互作用をして再生へ向かいます。損傷刺激に応答して多くの遺伝子が同期して発現を開始します。したがって、このような複数の神経再生関連遺伝子の発現をまとめて制御しているメカニズムが生体にあるに違いありません。いわば、神経再生の最初のスイッチを入れる遺伝子です。また、これとは別に神経再生に必要な複数の発現を通常OFFにしている逆のスイッチ(mi-RNAなど)の存在も分ってきています。このような神経再生に関わる起動スイッチやOFFスイッチ分子の発現を制御できれば、効率よく神経を再生へ向かわせることができます。現在までに、いくつかの神経損傷特異的な転写因子(スイッチ)や、それらのスイッチをOFFにしているmi-RNAを同定しており、この辺りのメカニズムを応用し治療へとつなげて行きたいと考えています。また、それらスイッチ遺伝子の発現特性を活かし、神経細胞が損傷を受けた時にのみ神経細胞が蛍光標識されるマウスや損傷神経細胞特異的にCreリコンビナーゼが発現するマウスを作成しています。これらのマウスは、個体レベルでの再生研究に非常に有効なツールになると期待しています。

(iii)神経−グリア相互作用

最近、神経細胞に異常がなくともその周辺のグリア細胞に異常が生じることにより神経細胞が変性に至ることが知られ、神経細胞非自律的な、周辺の環境に依存する神経細胞死が起こることが明らかになりました。神経損傷後の修復過程においてもミクログリアやシュワン細胞など多くのグリアとのインタラクションがダイナミックに展開されます。特にミクログリアは形態変化をしながら脳内を移動し、多くの免疫系のメディエータ分子を発現していることから、その機能の解明が急がれます。このようにグリア−神経の相互作用を分子レベルで理解することをめざしています。これらは、損傷神経の修復のみならず、孤発性の神経変性疾患の原因解明や治療法につながる研究であると位置づけています。

(2)異常疼痛発症メカニズムの解析

神経障害性疼痛モデルマウスと後述の慢性ストレスモデルラットを用い、異常疼痛発生のメカニズムを研究しています。これらのモデル動物では、感覚伝導路である脊髄後角でミクログリアやアストロサイトが活性化することが分かっており、前述の神経-グリア間の相互作用が、この場合でも重要であると考えられます。それらのグリア細胞が活性化するメカニズムと活性化したグリア細胞が疼痛を引き起こすメカニズムについて分子レベルで解析しています。

(3)慢性ストレスや疲労を科学する

機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome)には慢性疲労症候群や線維筋痛症など多くの症候群が含まれますが、それらの原因はまだ分っていません。しかし、過度の疲労やストレスがこれらの疾患となんらかの関連が有ると考えられています。特に睡眠障害、過度の疲労感、疼痛が共通した症状として現れます。このような症状は生体内のいかなる変化により起こっているかを研究しています。ラットの慢性ストレスモデルを用い、神経系(脳と脊髄)、内分泌系(下垂体や副腎など)、免疫系(胸腺や脾臓など)、循環器系(心臓など)の臓器において、慢性ストレス時にどのような遺伝子の発現が変化しているかを解析しています。また、その変化により何が生体で起っているのかを研究しています。最近、下垂体の一部で細胞が崩壊していることをはじめ免疫系や内分泌系の器質的変化が生じていることを発見し、これらが脳を起点として生じていることが見えてきました。すなわち慢性的なストレスは、脳に影響を及ぼしそれにより神経・免疫・内分泌系の変調が生じているのではないかと考えています。これらの原因から症状に至る過程を分子の言葉で説明できるように研究を進めています。

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